上野千鶴子「103万円の壁で得してきたのは主婦ではなくオジサン」壁を上げてまで温存しようとする本当の理由
■現在でもパートタイムで働く女性は1100万人存在するが… ――現在、パートタイム勤務・アルバイトをしている男女は約1474万人(2022年)。そのうち女性は1126万人(76%に相当)。この1126万人を含む女性の非正規雇用者1432万人中で年収100万円未満の人は41.2%。やはり、「夫の扶養の範囲で」と就業調整をしている女性は多いようです。 【上野】この現状を私たちは「新・性別役割分担」と呼んでいます。妻の家計補助収入で世帯の収入は増えたけれど、女性は、家事・育児・介護に加えて、外で働く時間が増えたことで、結果的に長時間労働になった。 この壁は非常に男性に都合良くできているんです。オヤジ同盟の陰謀だと言ってもいいぐらい。女性を扶養の壁に閉じ込めてきたツケ。まさに、政治による「人災」です。 日本経済の「失われた30年」(1990~2020年)の間に、非正規雇用がものすごく増えて、雇用全体の37%、女性労働者に限れば54%、非正規労働者全体の7割を女性が占めています。そこにさらに家計支持をしなければならないシングルの男女やシングルマザーが入っていったことも大きな問題です。 ■「103万円の壁」を引き上げようとしているのは女性ではない ――経済活性化のためにも、配偶者控除の壁を打ち破る必要があるということですね。 【上野】先の岸田政権でも「103万の壁」は国会の議題になりました。それは女性側からの要求ではなく、最低賃金が上がったために(2023年に全国加重平均額が1000円を超えた)パート主婦たちが働ける時間が減ったことで、人手不足にあえぐ中小企業の経営者から悲鳴が上がり、国会がその声に応えたものです。国民民主党が言うように、壁が「年収178万円まで」に引き上げられたところで、月収14万円ぐらいでは女性は経済的に自立できません。要するに、主婦はこれからも家計補助の立場に甘んじろということ。ふざけています。