2025年、米中台は一線を越えるか 銃を構えるトランプ・習近平・頼清徳、引き金を引くのは誰…駆け引きは予測不能
■ 米国に急接近する頼清徳 例えば頼清徳は11月末から12月2日までの1週間、友好国の南太平洋島嶼国、マーシャル諸島、ツバル、パラオを歴訪したのだが、その時に米国領のハワイ、グアムに立ち寄った。台湾がこれまでよく使ってきた一種のトランジット外交だ。 この頼清徳の外交のさじ加減は絶妙で、ハワイ、グアムは米国本土ではなく、南米の友好国の時の米国本土のトランジット外交よりは中国への刺激が少ないと、国際社会に思わせるものだ。だが、米大統領選が終わって1カ月もしないタイミングで、中国が影響力とグレーゾーンの侵略を強めている南太平洋の米国の軍事前線基地があるハワイ、グアムに立ち寄るということで、台湾の米国の軍事協力関係強化を望む意向をほのめかすものでもあった。 頼清徳はハワイで「中国は台湾が直面する最大の挑戦」と表明し、「戦争に勝者はいない」として国際社会に衝突防止のために協力するよう呼び掛けた。中国の南太平洋浸透を台湾は米国サイドに立って防ごうとしているという、立ち位置を明確にした。頼清徳はペロシ元下院議長と電話で討論し「中国の台湾に対する軍事的脅威」について語り、ハワイ州自治や国会議員とも面会したことは、かなり踏み込んだアクションだ。 だから中国は「強力な対抗措置」を表明し、かつて見ない規模で台湾を含む第一列島線周辺に軍艦、軍用機を投入する軍事演習を展開したのだ。 頼清徳政権は台湾のねじれ国会問題ほか内政に深刻な問題を抱えており、そのうえ社会には疑米論も根強い。だからこそ、外交面で成果を出し、台湾の国際社会における地位を確立させたい。 予測不可能なトランプ政権登場は、台湾にとって米国はじめ西側諸国を味方につけて中国の軍事恫喝(どうかつ)を正面から跳ね返し、国際社会の主要メンバーにカムバックできる世紀のチャンスかもしれないからだ。
■ 引き金を引くのは当然、あの人 米中台の駆け引きは、従来のように拮抗したままであれば現状維持ということになるが、一つバランスが崩れれば、それこそ後戻りできない、ポイント・オブ・ノーリターンの域にいたるだろう。 そして、トランプはまさに、これまでのバランスを維持しようと努力するタイプではなく、予測不可能な発言や判断で、バランスを突然ひっくりを返しそうな人物なのだ。 米海軍は「中国を打ち負かせる実力がある」といい、習近平は「戦争準備、戦争に勝てる準備をせよ」と解放軍に指示を出し、頼清徳政権は「戦争回避のための戦争準備」を掲げている。 これを単なる軍事筋肉ショー的な三つ巴の牽制と軽くみてはならない。これほどまでに、米中台が戦争の覚悟を表に出して語り始めたことには留意すべきだ。 映画などで、銃を構えあって三つ巴で威嚇しあっているシーンで、最初に引き金を引くのは、たいてい一番弱く焦っている人物だ。 トランプ、頼清徳、習近平の3人の性格を見比べれば、3人とも強いリーダーをアピールし、独裁者気質で、あまり他人の意見に耳をかさず、愛国者的。だが、私が見るに、習近平が一番小心者だ。中国が一番経済的にも追い詰められ、内政が不安定だ。 習近平が予測不可能なトランプに怯えて、非合理的な判断をして軍事衝突が起きてしまう危険性は来年から2027年にかけて高まり続けるのではないだろうか。 福島 香織(ふくしま・かおり):ジャーナリスト 大阪大学文学部卒業後産経新聞に入社。上海・復旦大学で語学留学を経て2001年に香港、2002~08年に北京で産経新聞特派員として取材活動に従事。2009年に産経新聞を退社後フリーに。おもに中国の政治経済社会をテーマに取材。主な著書に『なぜ中国は台湾を併合できないのか』(PHP研究所、2023)、『習近平「独裁新時代」崩壊のカウントダウン』(かや書房、2023)など。
福島 香織