米どころ新潟、災害級の猛暑でコシヒカリの一等級比率が平年70%→昨年5%に 想定上回る温暖化、「新之助」は窮地を救えるか #食の現在地
北魚沼とよばれる魚沼市でコシヒカリを栽培する「さくらや農園」の櫻井悟さんも、「じわじわと確実に温暖化が進んでいることを感じる」と語る。 「自分は30年ほど前に農業をはじめたんですが、そのころはまだゴールデンウィークくらいまで田んぼのあぜに雪があったんです。今はさっさと解けていく。田んぼに積もった雪の下の草がもう青かったりして、ずいぶん暖かくなっているんだなと。急激に変化したというよりは、徐々に、確実にね」(櫻井さん)
根強い「コシヒカリ信仰」 新潟は特に温暖化が影響
1969年に自主流通米制度がはじまって以来、コシヒカリは圧倒的な人気を誇り、現在も全国の作付面積はトップだ。 「コシヒカリは食感がやわらかく、タンパク質含有量が低く食べやすい。あきたこまちやひとめぼれなど、北海道系以外のコメはほとんどコシヒカリがルーツです。昭和からはじまった日本人のコシヒカリ信仰には、根強いものがありますね」 そう語るのは、元米穀新聞記者でジャーナリストの熊野孝文さん。 「コシヒカリを自慢のブランド米として生産してきた新潟の温暖化は深刻です。平野に張り巡らされた用水路の水が温泉のように熱くなって田んぼに流入することも高温障害の一因。コシヒカリは暑さに弱い品種ではないのですが、今の高温は稲育種の常識を超えています。 気温が上がると成長が急激に進み、穂の重さから倒伏しやすくなります。暑さに強いコシヒカリをと、以前から国の農研機構、各都道府県の農業試験場でも取り組みが進んでいますが、品種改良には莫大な予算と10年以上の歳月がかかるのです」(熊野さん) 農研機構(国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構)では、今後予想される気候をシミュレーションした気候モデルと、温室効果ガス排出シナリオを組み合わせた「気候変化シナリオ」に基づき、将来的な気温から水稲にどのような影響が出るかを20年以上予測・研究してきた。 「人工的に二酸化炭素濃度を高めた屋外で水稲を育てる実験をしました。二酸化炭素濃度が上昇すると光合成が活発になり、収穫量が増加します。ところが、あまりに高温条件になると、その増収効果は抑制されてしまうことがわかりました。また、二酸化炭素濃度は品質に対しても影響し、白未熟粒(乳白部が白濁し、未熟粒に分類される粒)を増やしてしまうのです。影響を軽減するための適応策としては、品種改良のほかに、田植えの時期をずらすとか、発育特性の違う品種を導入するなどして、稲が高温影響を受けやすい時期を高温のピーク期に当たらないようにする、農業用水が豊富であれば水田の水をかけ流ししたり多く入れたりすることで水温が高くなることを防ぐといった水管理を適正に行うなどがあります」(農研機構 農業環境研究部門 石郷岡康史グループ長)