「鬼の小屋まではあと少し」 北アルプス餓鬼岳、91歳山小屋オーナーを慕うガイドたちが「安全喚起プレート」に込めた思い
北アルプス餓鬼岳(2647メートル)直下の餓鬼岳小屋に至る登山道に安全登山を呼びかける「安全喚起プレート」が設置され、登山者の評判を呼んでいる。新型コロナで客足が遠のいた2021年から山岳ガイドの大場淳治さん(61)=池田町会染=ら有志がこつこつと設置。長く険しい道に苦しむ登山者に寄り添い、日本語や英語で「鬼の小屋まではあと少しだ」「強い意志と体力が命を救う」などと呼びかけている。 【写真】鬼のイラストを添えた「安全喚起プレート」
餓鬼岳登山の技術的難易度は県の「信州山のグレーディング(難易度評価)」で5段階中3段階目、必要体力度は10段階中5段階目。難易度が比較的高いことや新型コロナ下の利用低迷もあり、大場さんは餓鬼岳登山を多くの人に安全に楽しんでほしいと設置を考えた。
餓鬼岳小屋は、オーナー伊東瑛子さん(91)=大町市常盤=の夫の宗右ェ門さんが狩猟小屋を改装し、1973年から登山者の受け入れを始めた。しかし、宗右ェ門さんは2004年に76歳で死去。それ以来、瑛子さんは宿泊予約の受け付けや会計処理といった事務作業を一手に担ってきた。「夫が命を削って大切にしてきた小屋をなくすわけにはいかない」と守ってきた小屋。その朗らかな人柄を慕う登山者は多く、大場さんも協力を買って出た。
今季からは外国人登山者向けに英語を併記したプレートの設置も始めた。大きさはA4判とその縦半分の2種類で、ラミネート加工済み。餓鬼岳小屋のトレードマークとなっている鬼のイラストを添え、日本語表記は32種類、英語併記は13種類作った。設置箇所は白沢登山口(大町市)から餓鬼岳を経て中房温泉(安曇野市)に至る途中の約30カ所に上る。
伊東さんは「安心して登れる」と登山者からお礼の電話がよくかかってくるとし「大場さんをはじめ、周りの方が助けてくれてありがたい」と感謝する。餓鬼岳小屋の今季営業は10月中旬まで。大場さんは「紅葉が美しくなる時季。よく整備された登山道を歩いてほしい」と話している。