【追悼】「一歩違えば豊中のチンピラになってたかもしれへん」火野正平さんの「秘めたる激情」と「後輩から慕われた優しさ」…モテ男の人柄がなせた「名演」の記憶
市井の人を演じ続けた
総理大臣を演じたこともあるが、やはり晩年まで市井の人としてキャスティングされることが多く、『Fukushima 50』(20年)では原発事故の現場に飛び込む作業員、『ラストマイル』(24年)では物流を支える宅配ドライバーに。作品の思想は対照的ながら、それぞれ地べたの名演を残した。 とくに『ラストマイル』は氏のアップから始まる、まごうことなき「火野正平映画」であり、軽トラだけでなく自らの足で「走る」姿も見せ場となっている『鬼平犯科帳 血闘』(24年)の彦十と合わせて、なにかしら今年の助演男優賞に選ばれるのではないか……そう思っていた矢先の訃報であった。 ベテランながら風格や重厚という言葉が似合わず、それを拒むかのような存在だったが、スタジオジブリのアニメ『君たちはどう生きるか』(23年)における大伯父役という声優仕事は驚きの新境地、いい意味で「なにを演じても火野正平」と言われてきた個性をあざやかに裏切った。あの「声」だけの滋味は、取材中に聞かせてくれた新曲「あかんたれ」とともに忘れがたい。そうだ、最後の主演映画『LAST LOVE/愛人』(14年)ではギタリストとして再起をかける男を演じており、これまた絶品であった。 無頼作家のチャールズ・ブコウスキーを愛した火野正平、一人称は「俺」、好きな言葉は「考えるな、反応しろ」。感性のままに見えて緻密な演技を披露し、与えられた役を拡げていった。その自由さ奔放さを、あらためて体感したい。
高鳥 都(ライター)
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