【追悼】「一歩違えば豊中のチンピラになってたかもしれへん」火野正平さんの「秘めたる激情」と「後輩から慕われた優しさ」…モテ男の人柄がなせた「名演」の記憶
「不良性感度」を遺憾なく発揮した現代劇
もちろん現代劇にも出演。現代版必殺『ザ・ハングマンⅤ』(86年)ではメカに詳しい「エジソン」を演じ、『ジャングル』(87年)、『NEWジャングル』(88年)では元教師の刑事「かずさん」としてグッと抑制された存在感を放つ。やがてトレードマークのロン毛は短くなり、スキンヘッドへ。土曜ワイド劇場の人気作「混浴露天風呂連続殺人」シリーズには1995年の15作目から入湯し、古谷一行との刑事コンビで全国をめぐって温泉ギャルと触れ合った。 犯罪者の役もよく似合う。実際の事件をもとにした2時間ドラマ『滋賀銀行九億円横領事件 女の決算』(81年)では、ハイミス銀行員(大楠道代)から巨額の金を吸い上げる年下のヒモに。よくぞこの役を引き受けたというキャスティングだが、さすがの説得力と母性本能のくすぐりで堕ちゆく物語を支えた。 同じく実録もの『下弦の月 鬼熊事件』(90年)は大正時代に起きた事件の映像化であり、堂々の主演作。痴情のもつれから罪を重ねた鬼熊=岩淵熊次郎が山中に逃亡、やがて世間の同情を集めていくが……おっかあ(乙羽信子)の作った毒入りの握り飯を食らって悶死というラストが泣かせてくれる。 本人が思い出深い作品と語っていたのが、火曜サスペンス劇場10周年記念作『たそがれに愛をこめて』(90年)。死刑判決を下されたあと心臓発作で倒れて大手術を受ける囚人役に扮し、中村雅俊、柄本明という同世代俳優との共演を楽しそうに振り返ってくれた。監督の齋藤光正とは時代劇での仕事も多く、火野の演技を「お任せ」にしない希少な存在だったという。 90年代以降は「出るのも見るもの好きなんだ」というVシネでも活躍、持ち前の不良性感度が晩年まで生かされた。趣味が高じての主演作「新麻雀放浪記」シリーズでは「坊や哲」を演じ、だらしなくも凄腕のギャンブラーに。なかでも『新麻雀放浪記3 死闘編』(00年)は山荘に籠もってひたすら勝負を続けるというソリッドな密室劇であった。『極道恐怖大劇場 牛頭』(03年)の怪演も印象深い。 2011年からはNHK BSの『にっぽん縦断 こころ旅』で自転車に乗って全国を疾走。「人生下り坂最高」「とうちゃこ」などの名セリフを残し、人たらしとしての才能が全方位に発揮された。鳥取ロケで俳優仲間の野口貴史とばったり出会うなど、数々の感動的なパプニングも記録されている。
【関連記事】
- 火野正平さんが「丸山の妓夫太郎」を演じたドラマ「長崎犯科帳」…その元になった「犯科帳」に残された「不倫した妻に寛大だった夫」の記録
- 滋賀の42歳独身女性銀行員が「10歳下のヒモ男」に貢ぐために「9億円横領」…女の「出世」が裏目に出た「衝撃の末路」…事件をもとにした作品で「史上最悪のヒモ男」を演じた「意外な俳優たち」
- モテの天才・火野正平が語る「男の色気」<br />”プレイボーイ”に年齢は関係ない!
- 絶海の孤島で「32人の男」たちが命をかけて奪い合った「1人の日本人女性」…一世を風靡した「アナタハンの女王」が西成で工員から頭をカチ割られ、故郷に戻るまで
- 立教大学の助教授が「不倫相手の教え子」を殺害して一家心中…教え子が最期に残した「メッセージ」と遺体の発見場所…事件をもとにした名作ポルノの「封印」がいま解かれた理由