【追悼】「一歩違えば豊中のチンピラになってたかもしれへん」火野正平さんの「秘めたる激情」と「後輩から慕われた優しさ」…モテ男の人柄がなせた「名演」の記憶
『新必殺仕置人』の正八三部作
1977年、必殺シリーズ第10弾『新必殺仕置人』にレギュラー出演。役名も「正八」と火野正平本人を思わせるものであり、ますます自由に江戸の町を駆けめぐった。アドリブも加速し、ヒット曲「勝手にしやがれ」を口ずさんだり、サングラスをかけたりとノリのよさが随所に現れた人気作だ。 私生活では、すでにプレイボーイとしてマスコミを賑わせており、共演の山﨑努や中村嘉葎雄が「火野正平を更生させる会」を結成。実態は単なる飲み会で、本人いわく「あっちが更生せな!」と酒ぐせの悪さを振り返っていた。しかし、現場では火花も散っており、山﨑と火野の間で演技をめぐる「あわや一触即発」の状況があったことをのちに河原崎建三が明かしている。 『新必殺仕置人』には「正八三部作」として語り継がれているエピソードがある。いずれも新鋭監督の高坂光幸とコンビを組んだ作品で、ズタボロになりながら幼馴染の恨みをはらす第17話「代役無用」は正八の未熟さ、優しさ、そして激情が胸を打つ。哀しき展開に映し出される光と影の映像美もシリーズ屈指、火野による挿入歌「想い出は風の中」まで誕生し、三部作の幕開けとなった。 続く第30話「夢想無用」では遊び相手だったはずの娘が身ごもり、正八は裏稼業から足を洗う決意をする。しかし、仲間たちはそれを許さず……。第40話「愛情無用」では殺し屋組織「寅の会」の用心棒として恐れられてきた死神(河原崎建三)が行方をくらまし、その正体を知らぬ正八と出会う。 三部作すべて「愛」をモチーフにしたセンチメントなエピソードであり、金をもらって恨みをはらす非情のシリーズとしては掟破りだが、それゆえの強度がある。「代役無用」「夢想無用」の脚本を執筆した保利吉紀も火野と同じ宿(かんのんホテル)を根城にした仲間であり、愛されエピソードは数しれず。 ただしモテ男ゆえ、迷惑もかけている。マネージャーの星野和子は著書『生きている理由』で俳優としての才能を称えつつ苦労を明かし、松竹のプロデューサー・櫻井洋三も「いちばん困ったんは正平! あれに勝るやつはおらん」と『必殺シリーズ異聞 27人の回想録』で往時を振り返った。火野自身、初の著書『俺』で女性遍歴を赤裸々に語っている(まだ30歳なのに!)。 その後も必殺シリーズでは正八として『必殺商売人』(78年)に、正十として『翔べ!必殺うらごろし』(78~79年)に登場し、80年代には「眠狂四郎」シリーズの金八、「長七郎江戸日記」シリーズの辰三郎など、撮影所を問わず同じような「走り屋」を演じた。エッセイストの森茉莉は火野を「ひらひら屋」と呼んでおり、なるほど着物をはためかせて駆ける姿は、その名にふさわしい。 いつしか昭和のプレイボーイは、現場を円滑に進めるための緩衝材のような役回りとなり、後輩からも慕われた。「なにができるわけでもないけど」と語りながら時代劇への思い入れは深く、2023年より復活した池波正太郎原作の『鬼平犯科帳』では密偵・相模の彦十を飄々と演じた。
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