【連載】会社員が自転車で南極点へ2 プンタアレナスからいざ南極大陸へ
チリの最南端にある町、プンタアレナスへ
2015年12月25日、クリスマス。ラン航空285便で、僕はチリ・プンタアレナスの町に降りたった。到着した時には、19時近かったが、まるで昼のように明るい。チリの最南端にあるこの町は、緯度が高いため、日が暮れるのは深夜になってからだ。ここには、南極大陸の基地を運営するANI社の支部がある。この支部に南極旅行に必要な全ての物資が運び込まれ、輸送機イリューシンによって、大陸へ運ばれるのだ。人も例外ではない。南極を旅行しようとする者は等しくイリューシンの洗礼を受ける。荷物と一緒に、輸送機で「搬送」されるのである。
この海の向こうは、もう南極大陸
空港には、既にANIのスタッフが迎えに来ていた。大きなバンに荷物を詰め込み、市街へ向かって、ひた走る。左には荒々しく波立つマゼラン海峡が見える。 この海の向こうは、もう南極大陸。人間どころか、ウイルス1匹ですら生存を許さない、「無」の世界が待っている。僕には、この町でやるべきことが2つあった。ひとつは、自転車を組み立てて、数十キロ走ってみること。飛行機の輸送中に自転車が壊れるというのは、よくあることなので、南極に行く前に一度走っておき、もし、壊れているならば、自転車屋に行って修理するつもりだったのだ。 もうひとつは、ガイドのエリックに会っておくこと。そう!ガイド! ・・・・・・ガイドだ。 これは僕にとって大きな挑戦だった。ここ10年、海外の自転車旅を基本的に独りでしてきた僕が、 協調性の欠片もない僕が! 誰かと一緒に旅をするのだ・・・しかも、男と、だ。 実は、会社を説得するために用意した宝刀が「ガイド」だった。世界的に有名な冒険家、エリック・ラーセン。彼が一緒に行ってくれる、という事実は、人事部を大いに安心させたようだ。会社にとって、勝手に冒険されて、そこで怪我をしたり死なれたりするのが一番困るのだ。 だが、僕は誰かと旅をすることに慣れていないので、不安ばかりが先行していた。自分のスタイルを誰かに壊されるのが嫌だったのだと思う。そこから見えてくるリスクも、わからなかった。 実際、このリスクは、後に南極点へのアタックの時に最悪の形で顕在化することになる。