【連載】会社員が自転車で南極点へ2 プンタアレナスからいざ南極大陸へ
ガイドのエリックと対面、珍しい予定通りのフライト
自転車の試走は40キロメートル程、行った。プンタアレナスの町の目の前に、海に沿って走ったのだ。しかし、結果は不安を残すものだった。突如、後輪が脱落したのだ・・・! 「中古の自転車じゃ駄目だったか! やっぱりな!」 道路の端っこに、よたよたと避難して、後輪を確認すると、どうにも、うまくはまっていないらしい。「そもそも、どうやったら、後輪ってはめられるんだっけ?」思えば、自分は自転車修理に関する知識も経験も不足していた。おまけにこの自転車は、以前の持ち主が改造しているようで、余計にわからない。
ガイドのエリックには、12月27日に会った。自分の上司程の年齢だが、それを感じさせないほど若々しかった。「これから、この人と一緒に暮らすんだ・・・」 僕は一抹の不安と、期待を感じた。嫁入り前の少女のような気持ちとは、このようなものだろう。 そんなエリックから、「明日の朝、出発っぽいよ」と話を聞いたのは、もう次の日だった。 ANIの支部で行われた事前ミーティングで、支部トップのオリビアは笑顔で僕に「明日の朝、6時5分にホテルに迎えにいくわね!」と言った。 南極大陸へのフライトは、数日の遅れが頻繁に起こる。予定通りにフライトできるなんて珍しいことだ。 しかし、次の朝、眠たい目をこすりながらホテルのロビーに降りていくと、確かにスタッフが迎えに来ていた。「自転車まだなおしてないんだけどな・・・」 僕は急きたてられるようにイリューシンに乗り込んだ。
後に引けなくなったいよいよ南極大陸へ
イリューシンが出発したのは、午前10時前後だったと思う。ソビエト製の巨大な機体は騒音がひどく、全ての乗員に事前に耳栓が配られた。ゴオオオオオオオオ・・・機体の揺れと共に、耳を切り裂くような轟音が響く、ゆっくりと飛行機が動き出し、揺れがどんどん大きくなっていき・・・そして、急にその揺れが収まった。 離陸したのだ。 「いよいよ、後に引けなくなった・・・! これはマズい!」 故障中の自転車1台と、怯えるサラリーマンを載せて、飛行機は一路、南極大陸はユニオングレーシャー基地を目指した。 ■大島義史(おおしま・よしふみ)1984年広島県生まれ。学生時代から自転車の旅に魅せられ、社会人になった後も有給休暇を取って自転車で世界を駆け巡る。長年にわたり会社や家族と話し合い、2015年12月に有給休暇を取って自転車で南極点へ行く旅に挑み、2016年1月に南極点へ到達を果たす。同月帰国後は間もなく職場へ復帰した。神戸市在住の会社員。インタビューでは「僕は冒険家じゃない、サラリーマンですから」と答えている。