イタリア・ドロミテの小さな村を悩ます問題とは?
ここ一週間で気温もグンと下がりオーラの村にも冬がやってきた。どんよりとした寒空が村を覆い、人は寒い中を険しい顔で足速に歩いている。クリスマスのアドベントが始まるまでの時期はちょうど閑散期となり村人が時々立ち話をしているの見かける程度。 さてそんな中、村民に州都ボルザーノへ向かう県道を一時通行止めにするとの連絡が来た。一体どういうことなのだろうか?連絡事項を読んでみるとここ数年、取り立ててこの2年ほど落石事故が増えているので人工的に爆破させて落石の確率を軽減するとの事。 私が住むこの南チロルの南側の「低地」地域は東西が高い山に囲まれ真ん中に川が流れている。見上げるほどの崖が村に隣接している為、当たり前といえば当たり前なのだが時々コロコロと岩が転がってくることがあるのだ。去年は軽自動車ぐらいの岩が村はずれのピザ屋の駐車場に転がってきたし、その数ヶ月後には四駆ぐらいの大きさの岩がとある工房の作業場の天井をぶち破って落ちてきた。そして最近また軽自動車ぐらいの岩が道路のど真ん中まで転がってくる落石事故が起こり、度重なる落石事故に多くの村人は不安を感じていたのだ。 落石事故が起こるたびに周辺の消防団が協力して巨大な石の撤去作業に取り掛かる訳だが、なんせとんでもない大きさなので撤去するには一日がかりの大作業となるのだ。本当に幸いなことに度重なる落石事故に巻き込まれた人はおらず・・・と言っても、ピザ屋は落石の危険があるため休業中だし、工房も閉鎖している。自然の流れの一つとはいえども間違えれば大惨事につながる落石問題を少しでも解決するために行われた今回の爆破処理。交通量の少ない時間帯を選んでの作業となったが、爆破処理後に道路や周辺に散らばった岩石の作業には相当の労力と時間を要したようだ。この様子は州のニュースでも大きく取り上げられた。 自然と対峙して生活するのはいい面もたくさんあるが、このように自然の中に住むからこそ普通では考えもしないような問題と向き合って、どこまで人が踏み込んで対処して行くのかという事を真剣に考えなくてはいけない時がある。 落石の危険が高いところを爆破処理したからといって落石がもう起こらないわけではない。「いつ」「どこで」「どれぐらいの」石や岩が上から転がってくるのかなんて誰にも分からない。そんな不安を抱きながらも東西を山に囲まれた地域に住む我々は今日も村と村を結ぶ県道を走り、眼下に迫る崖を見上げながら「いつも」通り、「いつも」の人と、「いつも」の時間に、「いつも」と同じカフェでコーヒーを飲み、「いつも」と同じものを食し、変わらない、変えない暮らしをしていくのだ。それがこのドロミテの小さな村の暮らしである。
美波ラーナ