元防衛省職員が過疎地にUターン、1人きりで地域情報誌を創刊した結果。50人以上の仲間が集い地域が熱を帯びていく ドット道東・北海道
誰にも求められていない締め切りを切り続け、1年で8冊
市内のデザイン会社に勤めたのち、独立した中西さんは地元に帰る目的であった「地元の情報を届ける」ことを始めます。2015年に若者向けの情報誌を創刊し、ほぼ一人で取材、撮影、デザインを行い1冊80ページのボリュームで冊子を作り上げていきました。つくったのは1年間で8号分。600ページ以上を1人でつくり続けました。
「当時話題にはなりましたが、自分が思い描いた“いつか地元に帰りたい人に情報を届ける”ことを達成することは、到底無理でした。誰にも求められていないような締め切りを自分で切り続けて、1年間何とか制作を続けましたが、想定発行部数に届かず大量の在庫が今でも実家の物置に置いてありますし、資金面では人には言えないほど苦労しました。しんどい思いをたくさん嚙み締めました」(中西さん) 地元の情報を多くの人に届けるという当初の目的は果たせなかったものの、情報誌づくりは思わぬ機会をもたらすことになります。 取材をする、というアクションから数多くの道東エリアの人とつながりを持ち、道東の人が持つ課題やニーズの解像度が高くなっていったのだそうです。
DIY的なイベントに、全国から人が集まる
道東は3万平方km以上の面積に人口は89万人と、札幌市に集中した197万人と比較しても半数に満たず、「人材」は散らばった状態にあります。 中西さんは道東エリアでの取材を通して出会ったオホーツク、十勝、釧路と各地に点在していた共通した地域への課題感を持つ人たちとともに、2018年に道東誘致大作戦と題した道東各地をめぐるイベントを開催します。 このイベントがヒットしたのです。SNSを活用した道東各エリア対抗の応援合戦や2泊3日で道東の地域暮らしを体感するツアーなどで実際に道東エリアに足を踏み入れるきっかけづくりに成功し、メディアでも取り上げられ話題となりました。 驚くのが、この規模のイベントが企業や自治体などの大きなスポンサーがついたわけでなく、「ただの個人の集まりからはじまったDIY的なイベント」だったということ。個人の集まりから“この指とまれ”形式で道東に人が集まってきました。