「どちらが勝っても米国には損失」嫌われ者対決を制したのはトランプ氏
政治経験のない人物がアメリカ大統領に選ばれるシナリオを真剣に考えていたひとはどのくらいいるのだろうか? 11月8日(現地時間)に行われた米大統領選挙では、大方の予想に反し、実業家のドナルド・トランプ氏が当選に必要な270人以上の選挙人を獲得し、対抗馬のクリントン氏に約60ポイント以上の差を付けて勝利した。トランプ候補は9日の午前3時前、ニューヨークで支持者が集まる会場に家族と共に登場し、勝利宣言を行った。クリントン氏のスピーチは夜が明けてからになる見込みだが、トランプ氏はクリントン氏から敗北を認める電話をもらったことを勝利スピーチで明かしている。なぜ、トランプ氏が勝利し、クリントン氏は敗北したのか?トランプ氏の勝利にアメリカの有権者は何を感じているのだろうか? 【写真】トランプ氏にサンダース氏 「異端」が躍進する米大統領選
世代間で大きさが異なる二大政党への不信感
8日午後10時頃、ニューヨークのブルックリンでは教師のモリー・カラブレーゼさんが夫と共にテレビで開票速報を見つめていた。すでにクリントン候補の苦戦がこの頃から始まっていたが、カラブレーゼさんは「すごく緊迫した雰囲気ですが、前の選挙では開票直後は共和党のロムニー候補がリードしていたんです。最後まで何が起こるかわからないので、希望を捨てずに開票結果を見届けようと思います」と語った。 同じ頃、首都ワシントンの政府機関で働くエリン・コーチャーさんは、アメリカ史上初となる女性大統領の誕生を楽しみにしながら、バージニア州の自宅で家族と共に開票速報をチェックしていた。 「今日は娘の学校で自分にとってのヒーローを選ぶ催し物があり、私の娘はローザ・パークス(公民権運動の母と呼ばれる黒人女性)を選びました。アフリカ系アメリカ人が大統領になり、今度は女性が大統領になる。人種や性別に関係なく、この国では努力次第ではなりたいものになれるんだという希望を、ローザ・パークスをヒーローに選んだ自分の娘にヒラリー・クリントン大統領誕生によってさらに強く持ってほしいと思っています」 様々な思いを抱えて、アメリカの国内外で多くの人が米大統領選挙の開票速報を注視し続けたが、当初の米メディアの予想に反して、勝者となったのは政治経験が全くなく、公の場での暴言や失言を繰り返してきたトランプ氏であった。 トランプ氏の勝因に関しては、これからメディアやシンクタンクが様々な見解を示すと思われるが、現時点ではっきりとしているのは人種や性別、世代間によってクリントンとトランプに対する支持がはっきりと分かれたことだ。 米NBCニュースは全米各州で開票作業が始まった直後に、全米の有権者に対して意識調査を実施。18歳から29歳までの若い有権者の54パーセントが民主党候補を支持すると答えたが(共和党支持と回答したのは37パーセント)、興味深いことに9パーセントが民主・共和の両党に属さない候補者を支持していると答えていた。2004年の大統領選挙で、二大政党に属さない候補者を支持すると回答した若い有権者はわずか1パーセントであったが、2008年に2パーセント、2012年に4パーセントと右肩上がりを見せ、今回はついに9パーセントにまで達した。ワシントンの政治システムを支持しない若年層の増加が顕著になっている。 65歳以上の有権者の間では、独立系候補を支持するという声はなく、2004年から現在まで、共和党支持が50パーセント台半ば、民主党支持が40パーセント台半ばという数字が変わらないままでいる。今後のアメリカ政治や選挙を予測する上で、若い有権者の「二大政党離れ」が重要なポイントになる可能性は高い。NBCニュースによると、大統領選挙で初めて投票を行った有権者の56パーセントがクリントンに投票し、40パーセントがトランプに投票したものの、4パーセントは独立系候補に投票していた。初めての大統領選挙で独立系候補に投票した有権者全てがいわゆるミレニアル世代(1980年代から2000年頃までに誕生した世代)なのかは不明だが、世代間で二大政党制に対する見方が異なることは間違いないだろう。