JR東日本も参入した「組み込み型金融」 個人向けの決戦場はスマホの中
GMOあおぞらネット銀行は、約630件のBaaS提供をしている(24年3月)。利用の多い銀行機能の一つには、振込入金専用の仮想(バーチャル)口座がある。ECサイト事業者などは顧客の注文ごとに専用口座を発行できるため、入金確認を効率化できる。同行では「顧客企業の本業サービスをよりうまく使ってもらうために、銀行機能をどう活用いただくかが重要」(小野沢宏晋執行役員)として、導入見込み先とさまざまなビジネスモデルを検討中だ。 ■店舗、ATMからスマホへ スマホ決済アプリに代金引き落とし口座として提供するのは、みんなの銀行。現在、スーパー運営会社のユナイテッド・スーパーマーケット・ホールディングス(USMH)に向け、同社のスマホ決済アプリに口座振替機能を提供している。顧客がアプリで決済すると、購入代金が口座残高から直接引き落とされる仕組みだ。これによりUSMHは、クレジットカード決済よりも手数料を低廉にでき、決済情報を活用したマーケティングが可能となった。 みんなの銀行はこれまでUSMHを含む5社とAPI接続し、5万口座を獲得している(24年3月現在)。今後、巨大な顧客基盤を持たない事業者も業務効率化のため組み込み型金融を導入するケースが増えていくだろう。 組み込み型金融の普及は、中長期的に金融機関のリテールビジネスに影響を及ぼす可能性が高い。すでに金融機関の顧客接点は店舗やATMからスマホアプリに移っている。ただし、アプリの競争環境はネット専業銀行、ネット上にプラットフォームを築けるような銀行に優位で、スマホ上で顧客接点の乏しい地域金融機関などは、苦戦を強いられている。 こうした中、組み込み型金融は「今までアプローチできなかった層に口座開設してもらう」(みんなの銀行ビジネスアライアンスグループリーダーの吉冨史朗氏)手段の一つとなり得る。折しもマイナス金利政策解除による利上げ局面で、預金獲得の観点で銀行口座の重要性は高まっている。
人々の生活動線は、スマホの中へとますますシフトしていく。その動線上に顧客接点を設け、いかに金融サービスを利用してもらえるか。組み込み型金融への取り組みが、金融機関のリテール戦略の明暗を分けるかもしれない。 (加藤精一郎〈かとう・せいいちろう〉『週刊金融財政事情』副編集長)