「年収103万円の壁」は“誤解だらけ”…実は「130万円の壁」のほうが重要? 壁“引き上げ”の「知られざる問題点」【弁護士解説】
「壁の引上げ」で拡大する「不公平」の問題
物価上昇が続くなか、『壁』を気にしていては家計が厳しくなる。昨今話題になっている「壁の引上げ」は、この状況に対応して目先の「手取りを増やす」ための政策と位置付けられるだろう。 しかし、荒川弁護士は「ことはそう単純ではない」と指摘する。 荒川弁護士:「昔から、『壁』の制度自体が不公平だという議論が根強くあります。優遇措置にはある程度の『不公平』は織り込み済みです。しかし、もしも『壁』を引き上げれば、その不公平の問題が拡大することになります。 どういうことかというと、扶養者の収入が大きくて生活に余裕がある人は、『壁』の内側で働いて優遇を受けられます。 これに対し、生活に余裕がなく『壁』を越えて働かなければならない人や、『夫婦共働き』の人もいます。 それらの人が優遇を受けられないという『不公平』は、『壁』の引き上げにより拡大することになります」 物価上昇、働き方やライフスタイルの変化、格差拡大など、世の中が大きく移り変わってきているなかで、「年収の壁」の存在意義も当初とは大きく変動していることは明らかだろう。現に、社会保険料の「130万円の壁」「106万円の壁」は、労働市場の人手不足や社会保障制度の財源確保の要請から大きく修正を余儀なくされている。 他方で、所得税の「103万円の壁」などについてはどうすべきなのか。現在は主に「壁の金額の引き上げ」がクローズアップされているが、それが本当に社会全体の利益、国民の幸福につながるのか。国会・政府は「壁」のそもそもの存在意義、「壁」にまつわるさまざまな問題点を考慮に入れ、「目先の利益」にとらわれることなく、慎重に政策を組み立てる必要があるだろう。
弁護士JP編集部