「年収103万円の壁」は“誤解だらけ”…実は「130万円の壁」のほうが重要? 壁“引き上げ”の「知られざる問題点」【弁護士解説】
「物価上昇」「最低賃金引上げ」に対応できていない
「年収の壁」はなぜ問題視されているのか。「壁」の存在は、所得獲得に向けられた活動を抑制する面があり、国の視点からみると、税収や社会保障の財源の減少につながる。 では、一般国民の視点からはどうか。荒川弁護士は、主に以下の3点が指摘されるという。 ①物価上昇・最低賃金の引上げに対応できていない ②女性の社会進出を妨げている ③老後のための資産形成に支障をきたす可能性がある まず「①物価上昇・最低賃金の引上げに対応できていない」について。 荒川弁護士:「『年収の壁』はいずれも、定められた時から金額が変わっていません。しかし、物価は上昇してきており、最低賃金も引き上げられています。 最低賃金の全国加重平均額は2005年時点で『時給668円』でしたが、2024年10月には『1055円』と、1.5倍超にもなっています。 もし『働き控え』をするなら、単純計算で労働時間を20年前と比べて3分の2未満に減らさなければなりません。『家計の足し』にするにしても、厳しくなっています」 ごく最近になって設けられた「106万円の壁」を除くと、「年収の壁」が設定された当時とは、年収も賃金相場も大きく異なる。金額の正当性・合理性が揺らいでいるといわざるを得ない。
「女性の社会進出」「老後のための資産形成」の支障にも?
次に、「②女性の社会進出を妨げている」という指摘も根強いという。 荒川弁護士:「『働き控え』をすると、先述した物価上昇・賃金上昇の問題と相まって、仕事で活躍できる機会が減ります。 『スキルの向上』につながらず、家計を助ける効果も限定的になってしまいます。 また、『壁』はもともと、昔の『夫は仕事、妻は家庭』という価値観を前提としていることは否定できません。故・安倍晋三元首相も、2014年3月に開かれた『第1回経済財政諮問会議・産業競争力会議合同会議』で、税制・社会保険制度における『年収の壁』などの問題が『女性の就労拡大を抑制する効果をもたらしている』と明確に指摘しています」 さらに「③老後のための資産形成に支障をきたす可能性がある」という点も看過できない。 荒川弁護士:「数年前に話題になった『老後資金2000万円問題』などに代表されるように、『年金不安』『老後資金準備』の問題が大きな関心事となっています。 高齢化が進んで老後が長くなっている反面、円安が進み、日本の経済的地位も低下しているといわれます。老後のためのお金がいくらあればいい、ということが予測できなくなってきています。 そんななか、『年収の壁』があるからといって労働時間を抑えていたら、老後資金の準備に支障をきたす可能性があると指摘されています」