ドラマ『わたしの宝物』がもたらした衝撃とは? 松本若菜、田中圭、深澤辰哉がみせた演技の魅力を深掘り解説
モラハラ旦那を演じた田中圭
宏樹を演じる田中圭も、回を追うごとにSNSでの反響が変わっていったのも印象深い。疲れている夫を気遣って笑顔で迎える美羽に、挨拶一つ返さない。それどころか何ら非のない美羽に八つ当たりする始末。初回では誰もが美羽の味方をしたであろう、憎きモラハラ夫だった宏樹。 ところが第2話では、宏樹が仕事で強烈なストレスを抱えていたこと、美羽の母の入院費用を負担していることなど、宏樹にのしかかる重圧が明らかになった。 北村一輝が演じる喫茶店のマスター・浅岡から「逃げちゃえば?」と声を掛けられてからの変化も印象的で、最初はガチガチに凝り固まっていて、微笑み方すらも忘れていた様子の宏樹だが、陽気な浅岡の言葉によって少しずつ心がほぐれていく過程を、絶妙な表情の変化で見せた。たった15分。宏樹が自分のためだけに使った時間がどれほど貴重だったか...。 栞の誕生から徐々にいいパパへと変貌していくのだが、美羽の後輩・真琴(恒松祐里)によって美羽の秘密が暴かれ、修羅場へと突き落とされてしまう。栞の誕生から、入水を決意するに至るまで、不器用ながらも踏ん張ってきた宏樹。その苦悩は、栞を抱きかかえ少し丸めた背中からも痛いほどに伝わってきた。 「生まれ変わったら本物の親子になれるかな...」と浅岡にこぼした宏樹。脚が水に浸かり、冷たさを感じるのと対照的に、抱きかかえる栞の温もりを感じて踏みとどまった...そんな大きく揺れ動く心境を想像させた。大きな仕事を任されプレッシャーを感じていたサラリーマン像の説得力もあれば、妻の裏切りを知り、やり場のない怒り...口数はそう多くはなかった が、場面ごとに印象を残す芝居が光っていた。
深澤辰哉とストーリーの整合
冬月を演じた深澤は、これまで様々な舞台でキャリアを積んできたが、約10年ぶりの地上波ドラマへの出演となったのが2023年10月期放送『今日からヒットマン』(テレビ朝日)。以降、今年1月期放送『春になったら』(カンテレ・フジテレビ系)では、奈緒が演じる主人公の友人役として出演と、ドラマへ帰ってきたのはこの1年ほどだ。 視聴者の中には、バラエティの印象が強く、3番手としての活躍ぶりが新鮮に映った人もいたのではないだろうか。 冬月のプロフィールには「彼女が辛い思いをしていると必ず現れて寄り添ってくれる、心のより所のような存在」とあるように、優しさ溢れる笑顔と佇まいで美羽を包んでいた。フェアトレード会社経営という仕事からも伝わってくるが、“人のために”と高い志を持って動ける人だ。 大きく話題を集めた第9話のタイトルバック明けから始まった宏樹と対峙するシーン。約3分50秒ほどの中で、美羽を苦しめた相手を許さないと言わんばかりの目つきに始まり、声が震えそうなほどに心拍数があがっている様子。胸ぐらをつかまれても怯まない姿からは正義感が滲み、そして栞と血縁関係について何も知らなかった衝撃...。 水木莉紗(さとうほなみ)に、声を荒げてきつく当たってしまう場面からは、言葉以上に悲痛な胸の内が伝わってきた。冬月から次第に笑顔をなくしていく過程、どんなことがあっても常に相手を思いやる姿勢。そんな冬月を演じるにあたって、深澤がまっすぐに役と向き合い、自身を重ねながら演じたことが感じられた。誠実さや素直さ、初々しさのある芝居がストーリーにマッチしていた。