「妊娠中のストレス」が「次世代に与える影響」…「驚きの結果」と「切実な問題」を提起したマウス研究の全貌
「お腹の調子が悪くて気分が落ち込む」という経験がある人は多いのではないだろうか。これは「脳腸相関」と呼ばれるメカニズムによるものだ。腸と脳は情報のやりとりをしてお互いの機能を調整するしくみがあり、いま世界中の研究者が注目する研究対象となっている。 【画像】「日本人はアメリカ人より発症率が高い」…「大腸がん」の「驚くべき事実」 腸内環境が乱れると不眠、うつ、発達障害、認知症、糖尿病、肥満、高血圧、免疫疾患や感染症の重症化……と、全身のあらゆる不調に関わることがわかってきているという。いったいなぜか? 脳腸相関の最新研究を解説した『「腸と脳」の科学』から、その一部を紹介していこう。 *本記事は、『「腸と脳」の科学』(講談社ブルーバックス)を抜粋、編集したものです。
膣内マイクロバイオータとストレス
これまで腸内のマイクロバイオータのことをお話ししてきましたが、じつはマイクロバイオータは腸だけでなく、口腔や肺、さらには膣にも存在します。体のさまざまな部分に、個体によって組成の異なる微生物の集団が存在するのです。 そして、最近では膣内マイクロバイオータの組成もストレスによって変化することがわかってきています。 妊娠中にストレスを受けた母親マウス(「ストレス母親マウス」とします)とストレスを受けていない妊娠マウス(「健常母親マウス」とします)の膣内マイクロバイオータを、帝王切開で生まれた直後の赤ちゃんマウスの腸内に移植するという実験が行われました。 お腹を切る帝王切開では、赤ちゃんは母親の膣を通らないため、その赤ちゃんマウスは膣内マイクロバイオータに触れていない状態で生まれます。 その結果、健常な赤ちゃんマウスと比較して、「ストレス母親マウス」から生まれてきた赤ちゃんマウスと、「ストレス母親マウス」の膣内マイクロバイオータを出生直後に腸内に移植された赤ちゃんマウスでは、腸内マイクロバイオータの組成が異なり、コルチゾールといったストレスホルモンの血中濃度が上昇し、ストレス状態にあるという変化が見られました。