自宅を「ゴミ屋敷」に変え、死の瞬間を待っていた…家賃滞納の現場で見た「ひとり暮らしの高齢者」の悲惨な現実
■2tトラックの荷台がゴミでいっぱいになった 「じゃあ、この部屋を綺麗にしよう。僕が姉さんのところに通うよ。家賃のことも心配しないで」 私は、行政の担当者と申請すれば生活保護費と年金の差額が支給されるよう打ち合わせをしていました。それすら栄吾さんは断ります。 「両親は姉さんの結婚を反対したこと、ずっと後悔していました。だからもし姉さんがお金に困っていたら助けてあげてと。僕は両親の遺産を姉さんのために使いたいんです」 栄さんはその言葉を耳にして、少し涙ぐんでいるようにも見えました。 栄さんの部屋のゴミは、2tトラックの荷台が埋まるほどの量でした。ただ大半がお茶のペットボトルだったので片付けるのは楽でしたが、除けた畳にはウジも湧いていました。そこで家主と相談し、栄吾さんの費用で全てフローリングにリフォーム。ついでにと流しやトイレまで、最新のものに入れ替えました。栄さんは「同じ部屋とは思えない」と、とても喜んだ様子でもありました。 このケースでは栄吾さんのおかげで訴訟をすることなく、滞納分の回収やリフォームまでできて家主側にとってとてもいい形で終わりました。 それは栄さんにとっても同じだったでしょう。ご主人が亡くなって生涯孤独です、と言っていたところ、半世紀以上会っていなかった弟が全面的にサポートしてくれたのですから。 ■ひとりぼっちの高齢者を一人でも救うためには その後、3年ほど経ったでしょうか。私は栄吾さんからの連絡で栄さんが永眠したことを知りました。「あのゴミ屋敷ぶりは、キョーレツでしたね」と笑っていましたが、姉を看取った栄吾さんからは大きな一仕事を終えた安堵感が伝わってきました。 今回たまたま栄さんの賃貸借契約の連帯保証人欄が栄吾さんになっていたため、私は戸籍から現住所を辿ることができました。けれど栄吾さんからは、栄さんの居場所を知ることはできません。相続などの権利行使のためでしか兄弟姉妹(傍系)の戸籍を取得することができないからです。 個人情報の兼ね合いもあると思いますが、家族関係が希薄になってきた今だからこそ、疎遠になった兄弟姉妹を探したいという場合には戸籍の取得はもう少し簡易になっても良いのではと今回のケースを通して感じました。 兄弟姉妹の居場所を知るのが、亡くなってから、あるいは相続で権利が発生したからでは、あまりに悲しいと感じます。居場所を知られたくないという場合以外、兄弟姉妹でも戸籍を取得できる、そんな世の中になってほしいなと思いました。 ---------- 太田垣 章子(おおたがき・あやこ) 司法書士 専業主婦だった30歳のときに、乳飲み子を抱えて離婚。シングルマザーとして6年にわたる極貧生活を経て、働きながら司法書士試験に合格。これまで延べ3000件近くの家賃滞納者の明け渡し訴訟手続きを受託してきた賃貸トラブル解決のパイオニア的存在。家主および不動産管理会社向けに「賃貸トラブル対策」や、おひとりさま・高齢者に向けて「終活」に関する講演も行い、会場は立ち見が出るほどの人気講師でもある。著書に『老後に住める家がない! 明日は我が身の“漂流老人”問題』(ポプラ新書)、『あなたが独りで倒れて困ること30 1億「総おひとりさま時代」を生き抜くヒント』(ポプラ社)などがある。 ----------
司法書士 太田垣 章子