士業はスペシャリストを目指すべきなのか (横須賀輝尚 経営コンサルタント)
■専門を絞るということは、「それ以外やらない」ということではない
そうなれば、「専門を絞っても他の仕事も受ける」というスタンスになります。少なくとも「やりません」と拒絶することなく「私より○○先生にお願いしたほうが確実ですので、ご紹介させてください」と他の方を紹介したほうがよいでしょう。そして、できることなら最初のうちは依頼された仕事はどのようなものでも、受けてください。 なぜ、ほかの仕事も受けたほうがよいのかというと、単純明瞭にいえばさまざまな実務経験を積んだほうが将来的に仕事の幅が広がるからです。そして、仕事を絞ってしまい、それ以外の仕事を受けないとすると、せっかくの売上増加のチャンスをみすみす失うことになるからです。 賛否両論ありますが、私はどんな仕事でも創業期は受けるべきと考えています。創業の頃は仕事を取るだけでも一苦労なわけですから、仕事をえり好みしている状況ではないといえます。ですから、数千円の手続きでも小口の顧問でも大切にしてほしい、というのが私の考えです。 私の場合、結果論ではありますが、当初は5万円を超える仕事はありませんでした。数千円の車庫証明、1万円ほどの内容証明郵便の作成、値引きされた宅建業許可、会社設立手続きなど、冷静に見れば相場よりもかなり安く、「これだけ働いてこの報酬か……」と悩むこともありましたが、仕事があることはとてもありがたかったと感じています。 最近、営業やマーケティングの話がさまざまなところで語られるようになり、士業業界としては決して悪いことではないのですが、こういった基本的な商売人としての姿勢は忘れてほしくありません。 ところで、専門分野を絞ったほうが営業的には成功しやすいのですが、よく心配されることがひとつあります。それは、専門分野に絞った結果、他の仕事がこなくなったらどうしようというものですが、次はこれを解説していきましょう。
■段階的に専門を絞ることで、紹介は増えていく
ビジネス戦略的な解説をすると、まずは絞る専門分野を決めます。そして、実際に仕事を受注した後に、専門分野以外の仕事の提案をします。 たとえば、就業規則専門の社会保険労務士が就業規則の仕事を取った後、「弊所では他にも助成金の申請や給与計算、それから人事評価制度のご提案などもできます」といったような提案をするのです。すでに信頼して仕事を任せてくれたお客様に提案するのですから、お客様も警戒することなく聞いてくれます。 このように、焦ることなくお客様候補と出会った入り口で複数提案をするのではなく、仕事の終わりという出口で複数業務の提案をします。これを私は「出口戦略」と呼んでいます。 私の場合は、このセオリーどおりに進んできたわけではないですが、創業当初は専門分野を絞らず「行政書士」として営業してきました。そのため、受ける仕事はさまざまで、前述のような行政手続きも民事的な仕事も受けてきました。 そして、ある時を契機にもっと起業家や経営者と仕事がしたいと考え、「会社設立」に特化しました。徐々に会社設立の専門家として認知され、行政書士という資格の名称より「会社をつくる人」として覚えられ、仕事は紹介で増えていきました。 最終的に会社設立の本まで書かせていただくようになりましたが(『株式会社はじめての設立&かんたん登記』技術評論社刊)、その間、会社設立以外の仕事をしなかったわけではありません。契約書、相続、内容証明、遺言書などの仕事もお客様に出口戦略で提案し、仕事を受けてきました。徐々に会社設立だけでも事務所が回るようになり、設立の仕事以外は別の先生をご紹介するようになりましたが、今でも他の業務で培った経験は生きています。 専門を絞ることは正解です。しかし、商売人としての姿勢を忘れないことが大事なのです。そして、段階的に本当に専門特化することで紹介は増えます。 ぜひ、さまざまな仕事を受けてみてください。 横須賀輝尚 パワーコンテンツジャパン株式会社 代表取締役/特定行政書士
【プロフィール】
1979年、埼玉県行田市生まれ。専修大学法学部在学中に行政書士資格に合格。2003年、23歳で行政書士事務所を開設・独立。2007年、士業向けの経営スクール『経営天才塾』(現:LEGAL BACKS)をスタートさせ創設以来全国のべ2,000人以上が参加。著書に『プロが教える潰れる会社のシグナル』(さくら舎)、『会社を救うプロ士業 会社を潰すダメ士業』(さくら舎)、『資格起業家になる! 成功する「超高収益ビジネスモデル」のつくり方』(日本実業出版社)、『お母さん、明日からぼくの会社はなくなります』(角川フォレスタ)、他多数。