トランプでも金正恩でもなく「北朝鮮問題」の本質は「中国問題」
「一帯一路」が朝鮮南端まで繋がる
北朝鮮が今年に入って対話路線に転じた一因は、最大の貿易相手国である中国による経済制裁が一定程度効いたからだとされる。しかし、すでに中朝国境の経済活動(石炭や石油精製品の船舶同士の取引、ブラックマーケット、出稼ぎ労働者の往来など)は元に戻りつつある。 中国は北朝鮮が核実験場などを爆破したことを「非核化に取り組んでいる証し」として、国連加盟各国が北朝鮮に科している経済制裁を緩和する決議案を提出する可能性もある。その際、トランプ政権が拒否権を発動すれば、せっかくの対話ムードが壊れかねない(北朝鮮は「米国が敵視政策を再開した」と反発するかもしれない)。北朝鮮の東西両岸と38度線(南北分断線)を結ぶ「H」型の経済回廊が完成すれば、韓国の経済界にとっても大きなビジネスチャンスが開ける。そして、中国からすれば「一帯一路」が朝鮮半島の南端まで直に繋がることになる。 北朝鮮との交流が進み、中国との経済的結びつきがさらに深まり、米軍のプレゼンスが低下する韓国の状況は、「米韓切り離し(デカップリング)」を狙う中国の地政学的目標と合致する。 もちろん、韓国内では保守派を中心に、そうした展開を危惧する声が強い。また、北朝鮮も、中国の衛星国になることを回避すべく、実は一定程度の在韓米軍のプレゼンスを望んでいるという見方もある。北朝鮮が米国との関係改善を望む理由は、短期的には米国、長期的には北朝鮮を完全に影響力下に置こうとする 中国から身を守るためという見方もあながち的外れではないだろう。
中国の「シャープパワー」警戒する米国
米国がこうした中国の勢力拡張を警戒しているのは明らかだ。今年1月に公表されたトランプ政権下初の「国家防衛戦略(NDS-2018)」において、米国は中国を(ロシアとともに)既存の国際秩序への脅威となる「修正主義勢力」と位置付けている。海洋(尖閣諸島、台湾、南シナ海)、サイバー、関税、知的財産権など争点は山ほどある。 加えて、最近では、中国やロシアなどの権威主義国家による世論形成プロジェクトを「ソフトパワー」ならぬ「シャープパワー」として警戒する雰囲気が米国内でとみに強まっている。シャープパワーは昨年末に全米民主主義基金(NED)の研究員によって提唱され始めた概念で、相手国を情報操作などによって世論誘導する能力を指す。 中国政府が世界各地で展開している言語文化教育機関「孔子学院」についても、米国内では「プロパガンダ機関」として問題視されており、有力大学を中心に距離を置き始めている。 米国では少し前まで「中国がグローバルな市場経済のなかで発展すれば、次第に民主化が進むだろう」との楽観論があったが、「現実はむしろ民主化に逆行するかのような強権国家化が進んでいる」との失望感や反発が急速に広がっている。私は今年1~3月までワシントンに滞在していたが、米国における対中強硬論や中国警戒論の台頭ぶりは日本で想像していた以上であった。 その一方、TPP(環太平洋経済連携協定)、パリ協定(地球温暖化対策の国際枠組み)、イラン核合意など、多国間枠組みから次々と離脱するトランプ政権は、自らの影響力拡大を狙う中国にとってあながち悪い存在ではない。