夫からDV、公園に大型犬…身近な困り事に奮闘する「行政相談委員」 認知度の伸び悩み課題
見通しの悪い十字路にカーブミラーの設置を-。そんな身近な困り事の相談を受ける「行政相談委員」が各地で奮闘している。親身に相談に乗り、行政機関に解決を働きかける活動はボランティアだ。制度が生まれて60年超。決して目立たないが、地域の「よろず相談所」として住民の安心、安全に貢献してきた。 (小川俊一) 【写真】相談前の北九州市内の用水路。草が生い茂り、土砂やごみがたまっていた 「この通学路は以前まで本当に危なかった」。福岡市早良区高取の行政相談委員、田中秀次さん(78)は小学校近くの交差点に立ち、3年前を振り返る。 当時、交差点の角地に古紙回収の無人ボックスが置かれ、登校時間にごみ収集車が出入りし、駐車時は通学路の路側帯にはみ出すようになった。朝の騒音も含めて住民から相談があり、田中さんが状況を詳細に調べて福岡県警早良署や同区役所に通報すると、約2週間で朝の回収はなくなった。 田中さんは同県警の元警察官で、退職後に行政相談委員に就いて15年。「困り事の解決に取り組むと自分の知見が広がり、それが次の相談に生きてまた地域の役に立てる」とやりがいを語る。 同区役所や公民館に設ける相談所で自身が受けた相談は約300件に上る。関係する行政機関などとやりとりし、神社を参拝する高齢者のけがが相次いだ近くの急勾配の坂道では、注意喚起するポールが立てられ、後に勾配を緩やかにする工事が行われた。 ギャンブル依存症の夫を抱え、相談する相手がおらず悩んでいた女性には治療関連の資料を渡した上で、親族間でじっくり話し合うことを勧めた。夫から暴力を受けていた子連れの女性と区役所の担当課を橋渡しし、シェルターでの保護につなげたこともある。 福岡県内では田中さんを含め157人(男性92人、女性65人)の行政相談委員が活動し、60~70代が9割を占める。「子どもやお年寄りが憩う近所の公園に大型犬が放し飼いにされている」、「用水路の清掃が長年行われず、草が生い茂り、土砂やごみがたまっている」など、相談内容は多岐にわたっている。 田中さんは功績が認められ、昨年度の総務大臣表彰を受けた。定年の80歳が近づき、行政相談委員向けの研修で講師も務める。「聞き上手になる」「できるだけ早い解決に努める」など経験を基に後進を指導しながら、自身は「これからも誠実に地域の悩みと向き合いたい」と語った。