三つの大津波を生き抜いて…102歳の歌人が「一番伝えたいこと」 ふるさとは失われても
私が一番伝えたいことは…
あの日から10年以上。 中村さんが詠み続けている短歌について、短歌結社「歩道」の編集人・秋葉四郎さんは「大震災の悲しみ、苦渋、涙、周囲へのいたわりや感謝がつまっている」と評する。 取材の最後、中村さんは老人施設の車の助手席に乗って、思い出の場所を案内してくれた。 かつて自宅があった田の浜は、目の前に巨大な防潮堤が立ちはだかり、海が見えなくなっていた。 「私のふるさとは失われてしまった」と中村さんは残念そうにつぶやいた。 「でも、私の短歌は残る。私にとってはそれで十分」 別れ際、車いすに腰掛けてほほえみながら、手を振った。 「忘れないでね。大地震が起きたら、必ず津波が来る。そうなったらすぐ高い所に逃げるのよ。物は取りに帰らない。命より大事なものはないわ。それが私の一番伝えたいこと」 (2022年5月取材。記事の内容は中村さんの証言や著作「大震災・前後」をもとにしています) <三浦英之:2000年に朝日新聞に入社後、宮城・南三陸駐在や福島・南相馬支局員として東日本大震災の取材を続ける。書籍『五色の虹 満州建国大学卒業生たちの戦後』で開高健ノンフィクション賞、『牙 アフリカゾウの「密猟組織」を追って』で小学館ノンフィクション大賞、『太陽の子 日本がアフリカに置き去りにした秘密』で山本美香記念国際ジャーナリスト賞と新潮ドキュメント賞を受賞。withnewsの連載「帰れない村(https://withnews.jp/articles/series/90/1)」 では2021 LINEジャーナリズム賞を受賞した>