「アートスペース福寿園」が京都にオープン。1790年創業の老舗茶舗が目指すものとは?
1790年(寛政2年)、山城国上狛(現京都府木津川市山城町)に、福井伊右衛門により茶商として創業した福寿園。サントリーが販売するペットボトル飲料「伊右衛門」でその名を目にしたことがある人も多いだろう。この老舗茶舗が、現代美術を主軸とする展示・販売ギャラリー「アートスペース福寿園」をオープンさせた。 同スペースが位置するのは、京都市内の目抜通りである四条通りにある京都本店の7階。デザインは、国立国会図書館西館、森鴎外記念館などを手がけた建築家・陶器二三雄によるもので、和をコンセプトに構成された京都本店の建築コンセプトに相応しい、「中庸」の空間を目指したという。 もともとこの京都本店は「茶」を主題に、「京の庭」「京の光」「京の技」を建物の中に取り入れたもので、人間国宝、重要無形文化財保持者7人の名匠による作品が館内に常設展示されるなど、伝統文化を重視する姿勢を示してきた。 そうしたなかで新たに誕生したアートスペース福寿園。福寿園のアート事業責任者を務める緒方恵介は、「お茶の文化を見つめなおす機会を京都で改めてつくりたい」と語る。ギャラリースペースには椅子が用意してあり、茶席のように、お茶を飲みながら作品を通した対話も生み出していきたい考えだ。 スペースのこけら落としは、その土地土地で生まれ育つ植物や植物と人、文化/伝統を研究し独自の表現で作品を展開してきた戸田沙也加の個展「茶花礼賛」(4月26日~6月25日)。 戸田は2年前に宇治の黄檗宗萬福寺のレジデンスプログラムに参加し、その際、巨大な茶壺を譲り受けたという。本展では、この茶壺に茶の花を描き、展示室の中央に展示。また、茶園で行ったフィールドワークをもとに取得した知識をもとに、11点のペインティングを制作した。 これらはすべて茶の花を描いたものだ。栄養素を奪うことから、本来は嫌われることが多い茶の花。戸田はあえてそこにフォーカスし、植物としてのお茶の美しさを提示した。 同スペースでは今後、伝統工芸や現代美術、写真、インスタレーションなど幅広いジャンルにおいて、「お茶」が原点となる企画展を年4回ほど開催予定。アートを本格的に事業化していく考えだ。
文・撮影=橋爪勇介(ウェブ版「美術手帖」編集長)