「娘のため」と思ったら、自分のためだった…悩める親が見落とす境界線
これから羽ばたいてゆく女の子たちが、「女の子に生まれなければよかった」と思わずに、「自分でよかった」と思いながら暮らせますように。 そんな願いがこめられた書籍が発刊された。それが、『女の子に生まれたこと、後悔してほしくないから』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)だ。 著者の犬山紙子氏は、娘を妊娠したことをきっかけに、現代社会の女性が抱えるさまざまな問題に向き合いはじめた。母娘関係、性教育、ジェンダー、SNSとの付き合い方、外見コンプレックス、いじめ、ダイエットなど、女の子を育てる時期に生まれる無限の「どうしよう」を起点に、10人の専門家取材を重ね、本書を書き上げた。 今回『女の子に生まれたこと、後悔してほしくないから』の発刊を記念して、犬山氏にインタビューを行った。聞き手は、子ども向けに「自分の身を守る方法」を網羅的に紹介した児童書『いのちをまもる図鑑』の著者、滝乃みわこ氏。 (構成/ダイヤモンド社・金井弓子) ● 「子どもで自己実現しない」に衝撃を受けた 滝乃みわこ(以下、滝乃):『女の子に生まれたこと、後悔してほしくないから』を書く中で、自分の価値観がひっくり返ったような、びっくりしたことはありましたか? 犬山紙子(以下、犬山):そうですね……。美容ライターの長田杏奈さんがおっしゃっていた「子どもで自己実現をしない」という考え方はすごく大きなトピックでした。 滝乃:どういう点に衝撃を受けたんですか? 犬山:この本を書く中で「子どもを守りたい」という気持ちが強くありました。でも、守りたい気持ちが強すぎると、そこに少し自分の自己実現が入っていないかな? と考えたんです。例えば、性被害から守りたいとか、そういう純粋な思いはあるんですが、気づかないうちに「娘を守ることで、自分自身を満たそうとしていないか」という問いが浮かんできて。 滝乃:それはたしかに難しいですね。親としての本能と、自分の欲求を切り離すのは簡単ではないと思います。 犬山:そうなんです。私の母も、私を守りたい一心で、門限を厳しくしたり、やたらと勉強をさせたりしていました。でも理由を説明してくれないし、勉強をする上で私の意見を聞いてくれることもあまりなかった。そのときはただ「押さえつけられている」としか思えなくて、反動で危ないことをしてしまったりもして……。今になって母の気持ちは理解できますけど、当時は伝わらなかったんですよね。だから「娘のため」と言いながら、それが実は「私のため」になっていないか。そこにはすごく悩みました。だからこそ、娘に対しては常に「押しつけになっていないか」を問いかけるようにしています。 滝乃:親の愛情と自己実現の境界線は本当に難しいですが、そこを意識しながら子どもと向き合うことが大切なんですね。 ● 子どもに期待するより、親が自分を磨いたほうがいい 犬山:長田杏奈さんは「子どもは自分とは別の人間で、別の人生があるから、子どもに自分の夢を背負わせたり、自分ができなかったことを子どもに託したりするのは違う」と話されていました。また「それよりも、やりたかったことがあるなら、自分ができる範囲でそれに挑戦してみればいい」「年齢や状況に関係なく、夢に近づく努力を自分自身で続ければいい」とも。 滝乃:その言葉にはハッとさせられますね。 犬山:巷で美徳とされがちな「己に勝つ」というスローガンに対しても、長田さんは別の視点を示してくれました。「子どもは己に勝つよりも、己と仲良くすることを学ぶべきだ」とおっしゃっていて。「自分の心が何を求めているかに気づける力を育てることが大切」という言葉には、とても共感しました。 ● 子どもが何歳になったら、死んでもいいか? 滝乃:上野千鶴子先生の「子どもが何歳になったら死んでもいいと思えるか」という問いもすごく印象に残っています。「生まれた瞬間に、もう死んでもいいと思えるお母さんもいるんですよ」というのには驚きました。 犬山:あの質問には衝撃を受けました。わたしは「20歳くらいかな」と漠然と思っていたので。 滝乃:人それぞれなんだ、ということですよね。 犬山:そうなんです。わたしは児童虐待防止の活動をしていて「困ったら社会に頼りましょう」「施設や支援する団体がありますよ」と伝えている立場なのに、どこかで「娘だけは、私が絶対に守らなければ」「20歳までは死んではいけない」と思い込んでいました。その問いを通じて、自分の中の固定観念に気づかされたんです。「社会が支えてくれる」と思いながらも、どこかで自分一人で何とかしなければと思っていたんですね。 滝乃:その動揺や衝撃が読者にも伝わるところが、『女の子に生まれたこと、後悔してほしくないから』の良さだと思います。同じようなことを感じているお母さんたちもたくさんいると思います。犬山さん自身のエピソードがふんだんに入っているのも、とてもいいですよね。読者がすぐに共感できる構成になっていると感じました。 ※本稿は『女の子に生まれたこと、後悔してほしくないから』に関する書き下ろし対談記事です。
犬山紙子/滝乃みわこ