マクロン×ルペン決選投票 直前のハッキングとフェイクニュースの影響は
掲げる政策にはどのような違いがある?
マクロンとルペンの両候補が掲げる政策の違いについても、確認しておきたい。両候補が掲げる政策で、大きな違いを見せているものをいくつか紹介する。EUとの関係では、両候補の主張は極端なほど異なる。マクロン候補はEUとの関係を強化し、ユーロ圏(EU加盟国のうち、経済通貨同盟に属し、ユーロを通貨としている国)の統合を推し進めていくという考えだ。一方、ルペン候補はユーロ圏から脱退し、国内通貨をユーロからフランに戻し、最終的にフランスのEUからの離脱を問う国民投票の実施を訴えている。 財政赤字の解消でも、両候補の掲げた政策は大きく異なる。ルペン候補は移民の制限とEU離脱によって、フランスの財政赤字は解消されると主張。フランスはドイツに次いで最も多くの負担金をEUに払っており、その額は毎年2兆円以上に及ぶ。マクロン候補は、最大で12万人となる公務員の人員カットを実施することで、財政赤字は大きく解消されると主張。約6700万人が暮らすフランスでは550万人を超える公務員がおり、人口1000人当たりの公務員数では日本の倍以上となり、先進国ではトップクラスの数字だ。 保護を求めてフランスにやってくる難民の受け入れも含めて、移民受け入れに関して寛容な姿勢を見せているマクロン候補。対するルペン候補はフランスが受け入れる移民の数を、これまでの8割減となる年間1万人に抑え、外国人を採用する雇用主に対して新たな税を課す姿勢を見せている。低所得者層向け住宅への入居も、フランス人に優先権を与えるべきとし、難民や移民に対する社会的援助を約束するマクロン候補とは対照的だ。
マクロン陣営がハッキング被害を受けたと発表
昨年の米大統領選挙では、ロシアからと思われるサイバー攻撃による民主党関係者の内部メール流出や、クリントン候補を標的にしたいわゆる「フェイクニュース」がSNSで拡散されたことが大きな問題となった。フランスでも同様の事例が発生している。マクロン陣営は選挙活動の最終日である5日夜、「大規模で組織的なハッキングの被害を受けた」と発表。実際に9ギガバイト分の内部資料がネット上で何者かによって公開されている。また、流出した情報が巧妙に別のフェイクニュースに加えられ、新たに拡散されているケースも確認されている。 ハッキングを行った人物や組織は特定されていないが、サイバーセキュリティを専門に扱う米国のフラッシュポイント社は5日、ロイター通信の取材に「犯行の手口から、ロシアのAPT28が関与している可能性がある」との見解を示している。APT28は「ファンシー・ベアー」という別名でも呼ばれるハッカー集団で、ロシア軍参謀本部情報総局(GRU)との関係も指摘される組織だ。3月にオランダで行われた下院選挙でも、APT28が関与した疑いのあるサイバー攻撃が報告されている。APT28は昨年の米大統領選挙で、民主党全国本部の内部メールが流出した際にも、別の組織と共に関与を疑われていた。 SNS上におけるマクロン候補への攻撃を、アメリカのオルタナ右翼が支援しているという興味深い報告も存在する。米シンクタンクのアトランティック・カウンシルは5日、ハッキングで流出したマクロン陣営の内部資料を閲覧することができるサイトのリンクを、「マクロンリークス」というハッシュタグをつけて拡散させたのはアメリカのオルタナ右翼系メディアの記者であったという調査結果を発表。このハッシュタグは瞬く間に他のユーザーによっても使われ始め、3時間半の間に少なくとも4万7000件のツイートに「マクロンリークス」のハッシュタグが付けられていたことが確認されている。また、ツイートの拡散にボットが使われていた可能性も指摘されている。 情報戦争の渦中にいるマクロン候補だが、これまでのところ支持率ではルペン候補を大差でリードしており、そのまま決選投票でも勝利するという見方が大勢だ。しかし、マクロンとルペンの両候補に嫌悪感を示す有権者も多く、どちらが当選してもフランスという国の舵取りが困難を極める事だけは間違いない。
---------------------------------- ■仲野博文(なかの・ひろふみ) ジャーナリスト。1975年生まれ。アメリカの大学院でジャーナリズムを学んでいた2001年に同時多発テロを経験し、卒業後そのまま現地で報道の仕事に就く。10年近い海外滞在経験を活かして、欧米を中心とする海外ニュースの取材や解説を行う。ウェブサイト