「開発独裁が効率的」「脱炭素も進む」...中東の「民主国」クウェートで何が起こっているのか
そしてクウェートではじめての計画停電
さて、クウェートは大規模停電の翌日6月20日に、電気使用量と送電負荷増大の削減を目的に、計画停電を開始した。クウェート・メディアによれば、クウェートで計画停電が行われるのははじめてという。 ワフラおよびアブダリーの農地で正午から2時間の計画停電を、またアブダッラー港、ライ、スレイビーヤの工業地区で午後1時から2時間の計画停電をスタートさせる。もちろん、電力・水・再生可能エネルギー省は、ピークタイムである11時から17時までのあいだ電力消費を削減するよう国民やクウェート在留者に呼びかけている。 また、教育省は、学期の終了を決定、小学校は夏休みに入ったとし、宗教関係の業務を行うワクフ・イスラーム問題省は、モスクでの礼拝終了後10分でエアコンを停止させることを決定した。さらに、内務省交通局も、6月23日から8月31日の11時から16時まで、デリバリー用の電動バイクを禁止した。 加えて、クウェートはオマーンとカタル(カタール)から合計500メガワット分、6月1日から8月31日というもっとも暑い時期限定で購入する短期間の電力融通契約を結んでいる。 筆者がクウェートに住んでいた1980年代末から1990年代はじめのころとは少しは事情が違うかもしれないが、そもそもクウェートの電力消費には非常識なところがある。 たとえば、夏に海外旅行などで長期に家を空けるときでも、家具などが傷まないよう、冷房をつけっぱなしにするのは当たり前であった(筆者も、住んでいたアパートの家賃には光熱費が含まれていたため、出張などで1週間程度留守にするぐらいであれば、当然冷房はつけっぱなしであった)。
伝統的に民主的で、議会がことごとく政府に反対してきた
クウェートの停電をめぐる状況は、同時に政治問題でもある。意外と知られていないが、クウェートは、大半が独裁体制の中東にあって伝統的に民主的な国として知られている。もちろん、西側的な意味での民主主義には程遠いが、それでも、選挙によって選ばれた立法府である国民議会が、世襲の首長家メンバー率いる行政府や国家元首の権力を抑制する役割を果たしてきた。 しかし、逆にそれが仇となって、政府の打ち出すさまざまな政策がことごとく議会の反対にあい、実現されないという事態がつづいたのである。エネルギー問題も同様で、電力不足はずっと前からの重要な課題であったにもかかわらず、適切な政策がとられてこなかったのは否定できないであろう。 政府と議会の対立が深刻化し、二進も三進もいかなくなるたびに、首長が首相の首をすげかえたり、議会を解散させたりするなどして事態打開を図ったが、まったく奏功せず、ただただ同じことを繰り返すだけであった。 ちなみに、2020年から2024年4月までのあいだに国民議会選挙は4回(補選を含めると5回)を数え、4年間の任期をまっとうできた議会は一つもなかった。また、2020年末に第37次内閣が成立して以降、2024年1月には第44次内閣が成立している。この間、首長家メンバーであるサバーフ・ハーリド、アフマド・ナウワーフ、ムハンマド・サバーフがあいついで首相に任命された。