トランプ・リスクを再点検:追加関税は戦後の自由貿易体制を崩し、世界大恐慌以来の保護主義蔓延のリスクも
米国の関税率は3%程度から17%程度にまで上昇も
トランプ氏が再選され、公約に掲げるような追加関税を導入する場合、米国の関税率は、1920年代末の世界恐慌以降に広がった保護主義期以来の水準になる可能性がある。これは、世界に保護主義傾向を一気に広げる契機となり、戦後の自由貿易体制は崩れてしまう可能性もあるのではないか。 世界貿易機構(WTO)によると、現時点での米国の実効関税率は3.1%だ。仮に、中国に対する関税が60%になり、それ以外の国々への関税が10%になる場合、米国の平均関税率(輸入額による加重平均)は次期トランプ政権下で17%にまで上昇する、と投資銀行エバーコアISIは試算する。関税率は5倍以上に跳ね上がるのである。 1929年に世界大恐慌が起きた際、米国は国内企業を守るために保護主義的傾向を強め、当時のフーバー大統領は、1930年に広範囲な輸入品に高い関税を課すスムート・ホーリー法を成立させた。その結果、米国の平均関税率は38%~42%にまで上昇した。これに対して、オランダ、ベルギー、フランス、スペインおよびイギリスは直ちに報復的関税措置を発表し、世界で保護主義傾向が一気に強まったのである。それは第2次世界大戦の原因の一つにもなったとされる。 トランプ氏が再選された場合、実際に公約通りの政策を行うかどうかについては不確実な部分はあるが、最悪の場合には、戦後に世界が築き上げてきた自由貿易体制を突き崩し、世界大恐慌後以来の保護主義的傾向を世界に広げるきっかけになる可能性がある。それは、世界貿易、世界経済に破壊的な悪影響を及ぼし得ることをしっかりと認識しておく必要があるのではないか。 (参考資料) "A Second Trump Presidency Stands to Radically Remake World Trade(トランプ氏再選なら、世界貿易は様相一変の危機に)", Wall Street Journal, October 23, 2024 木内登英(野村総合研究所 エグゼクティブ・エコノミスト) --- この記事は、NRIウェブサイトの【木内登英のGlobal Economy & Policy Insight】(https://www.nri.com/jp/knowledge/blog)に掲載されたものです。
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