今なお続く「入店拒否」報告 知られざる盲導犬60年の歴史
その一人、現役最高齢のアイメイト使用者、石川県の佐藤憲さん(85)は、1970年に1頭目の犬と歩行指導を受けました。佐藤さんは、「私がアイメイトを持とうと思った時代は、犬自体が社会の嫌われ者。皆が嫌がる犬を連れて、図書館でもホテルでもどこへでも入って歩くということを、誰も考えなかったですよ」と当時の世相を語ります。東京・練馬区の協会施設の近くで塩屋賢一の歩行指導を受けた際も、「練馬大根の畑の縁をね、とっとことっとこ歩いていると、すれ違う人たちから『犬が来たあ』と怖がられたり、『めくらが犬で歩くなんて冗談じゃねえや。歩けるわけねえや』なんて声が聞こえてきました」といいます。
何はともあれ、佐藤さんは無事歩行訓練を終え、意気揚々とアイメイトと共に地元に帰りました。しかし、大きな壁が立ちはだかったのです。「アイメイトを通勤に使いたい、地域の活動や旅行にも一緒に行きたい。でも、いざ動こうとすると全然ダメなんです。犬と一緒では、バスにも汽車にも、タクシーにも乗せてくれない」。ほとほと困り果てた佐藤さんは、まずは地元のバス会社に直談判。「かわいい犬に、雨の日もずぶ濡れになって歩けというのですか?」という奥様の「泣き落とし」も効いて、運転手一人ひとりとの交渉を経て、ようやく乗車できるようになったといいます。 佐藤さんは、その後、活動を全国に広げ、アイメイトと共に上京を繰り返して国会議員や運輸省(現・国土交通省)などに陳情を重ねました。その間、宿泊したホテルや食事をしたレストランでも、実際にアイメイトを見せながら理解を得る努力を重ねたといいます。そして、佐藤さんの働きかけがきっかけとなり、1977年の国鉄を皮切りに、バス(1978年)、私鉄、飛行機(1980年)の順に公共交通機関の自由乗車が実現しました。他の使用者も街頭でチラシを配ったり、デパートの屋上や催事場でアイメイトのデモンストレーションを行ったり、県議会傍聴ができるように働きかけたりと、地道な啓発活動を重ねました。大勢の家族やボランティアもその手伝いをしました。こうした活動は、現在も変わらず続いています。