【行動経済学】高級時計の見せ方は、垂直とナナメ、どちらが正解?人間の無意識に働きかける「概念メタファー」とは?
行動経済学が最強の学問である #3
まったく同じ時計の広告でも、垂直に写っているかナナメに写っているかで、まったく印象が異なるという。無意識の中で人が情報をどのように受け取っているかがわかれば、より効果的な広告を打つことができるだろう。 【写真】水のボトル、どっちに“高級感”を感じる? 『行動経済学が最強の学問である』より一部抜粋・再構成し、そのロジックを解説する。
「概念メタファー」―高級時計の見せ方は、垂直かナナメか?
この2つの時計の広告は、とある論文で実験された広告の写真です。同論文では、この2つの広告のうち、どちらがより効果的かが実験されました。 ここで結論に入る前に、あなたも考えてみてください。どちらがより消費者に魅力的に映るでしょうか。もちろん同じ時計、同じモデル、ポーズもポケットに手を入れるという同じポーズで、唯一違うのは「時計の向き」だけです。 同論文によると、左の広告のほうが権威性を示す、つまりは高級時計には効果的な広告になると結論づけています。なぜでしょうか。 左右の広告を比べると、左の広告は時計の向きが「垂直」で、右の広告は「ナナメ」になっています。このとき、人は左の広告からは、「権威性」や「贅沢」な印象を感じます。 人は垂直のものを見ると、無意識のうちに「人の上に立つ」「出世する」「優位性」といった感覚を抱くのです。その感覚によって「この時計は高級品に違いない」と解釈します。 垂直性は「重力に逆らって上昇・忍耐力・強さ」を無意識に示唆するとの調査結果も出ており、左の写真を広告に使うことで、「高級で長く使える最高の時計」というイメージを喚起します。 このとき、「人の上に立つ」「出世する」「優位性」といった抽象的な概念を「垂直(な配置)」という「具体的なもの」に喩える(比喩)ということが起こっています。 このように、抽象的な概念を具体的なもので比喩することで、人が理解しやすくなる認知の枠組みを「概念メタファー(Conceptual Metaphor)」と言い、比喩が単に修辞技法や言葉の綾ではないことを証明しています。 あなたももし「高級な印象」を与えたいのなら、それを垂直に配置するといいでしょう。逆に、もっと躍動感を演出したいときには、あえて右の広告のようにナナメに配置するということも検討してもよいでしょう。 他にも概念メタファーによる認知のクセを利用すれば、より効果的なビジュアルを決定できます。 上の2つの水のボトルの写真を見てください。もしあなたが「高級感」を演出したい場合、どちらを選ぶべきでしょうか。 答えは、左です。 背が高く細長いほうが高級な印象になります。一方で、親しみやすい安心感を演出できるのは右です。 人は無意識のうちに「細長いもの=高級」「低くて幅があるもの=気楽」と感じるためです。人は直感的に、背の高いものを見ると「力・権威・高級感がある」と感じ、低いものを見ると「安心、親しみやすさ」を感じるのです。 これも「高級」という抽象的な概念を「背が高く細長い」という具体的なもので比喩して理解しやすくしている、「概念メタファー」です。