ポストSDGsの鍵は「食」にありー武見ゆかり氏に聞くー
■日本の食文化の持続可能性とその再評価
武見氏との対談を通じて、私は日本の食文化の持続可能性についても再評価する必要があると感じた。武見氏は、日本の伝統的な和食が持つ健康価値と環境への優しさを高く評価している。 和食は「一汁三菜」というバランスの取れた構成を持ち、少量の肉や魚、豊富な野菜と穀物を組み合わせた健康的な食事モデルである。このモデルは、主食・主菜・副菜を組合せた食事パターンとして健康の面から推奨されているが、今後は環境の面から、持続可能な社会の実現に向けた食事パターンとして検討が必要とのことであった。 さらに、武見氏は、現在の日本の食生活における課題にも触れている。日本を含む東アジアでは、食塩の過剰摂取の課題が最も大きく、次いで全粒穀物の不足、果物や野菜の摂取量の少なさが不健康な食事による死亡率の増加に寄与しているという。これらの問題を解決するためには、旬の野菜や地元産の食材を積極的に取り入れ、食塩摂取を抑えるための調理法の普及が必要だと述べている。 彼女の提言は、伝統的な食文化を尊重しつつも、現代のニーズに合わせて進化させることの重要性を示している。私自身も、農林水産省での経験を通じて、日本の食文化が持続可能な未来に向けて非常に大きなポテンシャルを持っていることを再認識した。
■ポストSDGs時代に向けた「食環境」の重要性
対談の中で、武見氏はポストSDGs時代に向けた具体的なアクションについても語ってくれた。彼女は、食と栄養が持続可能な未来を築くための鍵であり、そのためには具体的な取り組みが不可欠であると強調している。 例えば、川越市保健所が主導した減塩プロジェクトは、職域における成功事例として注目できる。このプロジェクトでは、地域の保健所と事業所、大学が連携し、社員食堂のメニュー全体の減塩化が従業員の健康改善に寄与している。従業員の血圧改善や減塩意識の向上が確認されており、他の地域や事業所でも再現可能なモデルケースである。 このような取り組みを全国に広げることで、持続可能な未来に向けた食と栄養の力を最大限に発揮することが期待されている。 また、武見氏は、日本の健康と栄養政策における「食環境」の重要性についても強調している。食環境とは、食物へのアクセスとその情報へのアクセスを一体として考える概念であり、消費者が健康的な選択をするための支援システムである。 彼女は、食物の生産から消費までの各段階で、健康的な選択を促す環境の整備が不可欠であると述べる。また、正確で有用な情報を提供し、持続可能で健康的な食物提供システムを構築することで、消費者がより良い選択をできるよう支援する必要性を訴える。 こうした政策的アプローチは、国全体の健康増進に直結するものであり、産官学連携による食環境づくりが健康な社会を築く基盤となると強調している。