都内の物件は「もはや手が出せない」 物価高に追い付かない賃上げ、遠ざかるマイホーム
「ローン減税延長」求める声も
住宅購入を後押しするため、政府は減税策などを実施してきた。だが、巨額の財源を必要とする減税策が混沌(こんとん)とする政治状況の下で続く保証はない。 住宅ローン減税は24年の入居分から、住宅の省エネ性能などに応じて控除額の上限が縮小されたが、子育て世帯などに限り、上限額を24年末まで維持することが決まっている。国交省はこの優遇措置を25年末まで延長する方向で検討しているが、まだ決まっていない。 住宅購入を検討するさいたま市南区の夫婦(夫29歳、妻30歳)は長女が生まれたばかり。「暮らしに余裕が生まれるほど賃金は上がっていない。金利が上がるなら、減税策をもっと充実させてほしい」と期待する。減税自体は25年末までの入居が期限。金利上昇が続けば金融機関の審査が厳しくなる可能性もあり、大手住宅メーカー担当者は「金利の上がり方によっては、需要が冷えてしまう」と懸念する。 ニッセイ基礎研の福本さんは、政府が金融機関を支援することで借り手の金利負担を軽減する策を提案。さらに「賃上げが十分に進まないと住宅購入はますます難しくなる」と述べ、実質賃金の引き上げが重要だと訴える。【浅川大樹、成澤隼人、井口彩、佐久間一輝】
根強い将来への不安感 持続的な賃上げを
「人生最大の買い物」と呼ばれるマイホーム。購入を検討する人を取材すると、日々の生活の厳しさや将来への不安を感じている人が多かった。主な購入層の20~30代は住宅ローンの利払い負担や子育て、将来設計など悩みの種が尽きない。 2年超に及ぶ物価高は海外要因で引き起こされた。2024年春闘の平均賃上げ率は5・1%(連合まとめ)と、33年ぶりの高水準を記録したが、従業員の生活支援という側面が強い。企業が自発的に賃上げを決断したとは言いがたく、人々は物価上昇の負担感を拭えていない。子育て世帯は子供の成長に応じ支出がかさむ。暮らし向きの改善には持続的な賃上げが欠かせない。 日銀が利上げ局面に突入し、日本経済には「金利のある世界」が到来し始めている。金利上昇は、お金を借りる側の負担増大を意味する。数千万円単位で住宅ローンを組む人も多く、金利が少し引き上げられるだけで、月々の返済額は増加する。 政府は「貯蓄から投資へ」をスローガンに少額投資非課税制度(NISA)などの活用を促し、金融資産を増やそうとしている。ただ、多くの若年層は投資の原資となるお金を多くは持たない。実際、取材では「住宅の購入資金に充てるため、NISAにお金を回すのはやめた」という20代女性もいた。富裕層とそれ以外で格差が広がりかねず、政策的な目配りが必要だと感じた。 賃上げを伴いながら緩やかに物価が上昇する好循環の実現が近づく中で、日本経済は重要な局面を迎えている。どの政党に国のかじ取りを委ねるか。有権者は各党が描く将来像をしっかりと見定める必要がある。
※この記事は、毎日新聞と Yahoo!ニュースによる共同連携企画です。