こうした働き方が受け入れられていることは、エアビーのアプリ「Airbnb」の予約状況からも見て取れる。「28日以上の長期滞在の予約は（全体の）14～16％で推移している」と、スティーブンソン氏は話す。この値が1桁台後半だったコロナ禍前の状態に戻る兆しはない。 　米ズーム・ビデオ・コミュニケーションズのアパルナ・バワ最高執行責任者（COO）も「ほとんどの顧客が（出社と在宅勤務の）ハイブリッド環境にある」と話す。RTOに起因するズームの解約や利用減は目立っていないという。 　バワ氏自身は火曜日と木曜日にシリコンバレーの本社に通っているが、遠隔地に住む従業員にはオフィス勤務を求めていない。「世界中のあらゆる場所から才能を取り入れたい。そして、すべての場所にオフィスがあるわけではない」（バワ氏）。同社の最高技術責任者（CTO）であるゼドン・ファン氏は米西部ワシントン州在住だ。 　米スタンフォード大学のニコラス・ブルーム教授は「全体を見れば、在宅勤務の水準は過去18カ月間変化していない」と指摘する。同氏らの9月の調査によれば、米国で在宅勤務が可能な職に就いている人のうち、常に在宅で働いているのは23％だった。ハイブリッド勤務をしている人が43％を占め、常にオフィス勤務をしている人の比率（34％）を上回っている。 ●ハイブリッド勤務で離職率は33％低下 　英科学誌「ネイチャー」に掲載されたブルーム氏らの研究によると、オフィス勤務から週2日在宅で働くハイブリッド勤務への移行によって、従業員の離職率は33％低下した。女性や非管理職、通勤時間が長い従業員で顕著な改善が見られ、生産性も落ちなかったという。ハイブリッド環境でも企業文化の醸成は可能と見ており、ブルーム氏は「アマゾンのRTOは人員削減の狙いが大きい」と推測している。 　働き方に関する著書が多い英ロンドン・ビジネス・スクールのリンダ・グラットン教授は「他社と同じである必要はない。企業は自分たちにとって何が正しいのか、自社の特徴は何かを問う必要がある」と言う。従業員にどのような働き方を求めるかも企業文化の一部であり、「望む人材を引き付け、とどまってもらえる施策かどうかを確認する必要がある」（グラットン氏） 　コロナ禍でいち早く在宅勤務にカジを切った米テック企業の一部が「週5日出社」に動いたことで、日本でも柔軟な働き方と対面での交流のバランスを巡る議論が再び盛んになりそうだ。ただ、「アマゾンが週5日出社にしたから」といった理由で追従するだけでは誰も幸せにならない。自社の現状を真摯に見つめ、最適な施策を再考するきっかけとすべきだろう。