Amazonの「週5日出社」は新常態か 割れるシリコンバレー
10月上旬の金曜日、米シリコンバレーにあるヨガ教室の正午のクラスはほぼ満員だった。学生や専業主婦も参加しているが、レギンス姿で汗を流す人たちの多くは会社員だ。近郊のテクノロジー企業で働く30代の女性は「ワーク・フロム・ホーム(在宅勤務)のおかげで通えている」と話す。 【関連画像】エアビーのスティーブンソン氏。取材時は米東部の州に滞在していた(写真=同社提供) 不要になった通勤時間や会議のないランチタイムを活用し、運動やちょっとしたレジャーを楽しむ――。新型コロナウイルス禍を経て、米国のあちこちで見られるようになった光景だ。しかし最近、こうした習慣を変えざるを得なくなるという不安がオフィスワーカーの間で広がっている。 きっかけは、米アマゾン・ドット・コムが9月中旬に掲げた「週5日出社」の方針だった。従業員にオフィスで働くように求める動きは「RTO(リターン・トゥ・オフィスの略)」と呼ばれる。テック業界でも週に2~3回の出社を奨励している企業は少なくないが、月曜日から金曜日までの通勤を指示するのは珍しく、社内外に衝撃が走った。 アンディ・ジャシー最高経営責任者(CEO)は従業員宛てのメモで「お互いに協力し合い、アマゾンの文化と深くつながり、最高の成果を出すため」と意義を説明した。過去数年の段階的なRTOによって「(オフィスで一緒に働く利点に対する)確信を深めた」と言う。2025年1月以降、アマゾンでは在宅勤務は「特例」という扱いになる。 同社に続き、9月末には米デル・テクノロジーズが営業部門の従業員に対して週5日の出社を求める通達を出した。米メディアが入手した社内文書には「人工知能(AI)の時代が到来する今こそ、対面での人間同士の交流がこれまで以上に重要になる」と書かれていた。テック大手が相次いで新たな方針を打ち出したことで、在宅勤務に関する施策を見直す企業が増えると見られている。 もっとも、これによって「週5日出社」が再び常識になると捉えるのは早計だろう。 ●最高の人材、オフィスのそばにいるとは限らない 22年に働く場所を問わない「live and work anywhere」の方針を掲げた米民泊仲介大手のエアビーアンドビー。同社の最高ビジネス責任者(CBO)で従業員向け施策も統括するデイブ・スティーブンソン氏は「世界で最高の人材が全員、我々のオフィスから 50 マイル(約80キロメートル)圏内に住んでいるわけではない」と話す。 「当社で最も優秀なエンジニアの何人かは米東部サウスカロライナ州におり、最も優秀なデザイナーの1人は英ロンドンにいる」(スティーブンソン氏)。柔軟な働き方を認める施策が採用競争において有利に作用していると見る。 筆者が「Zoom」で取材をした際、スティーブンソン氏は家族の用事に付き添って米東部ノースカロライナ州に滞在していた。新サービスの導入やアプリの刷新といったプロジェクトに応じて「チームが集まって仕事をする時期を意図的に設けている」(スティーブンソン氏)。これにより、実際に会って一緒に進めたほうが良い仕事と日常の柔軟性を両立させているという。 スティーブンソン氏は「いつ、なぜ集まるのかといった計画に時間とエネルギーを投じる必要があり、(全員が常にオフィスにいる環境と比べて)簡単ではない」と認める。しかし「より優れた人材を雇うことができ、彼らが幸せになり、素晴らしい仕事を成し遂げられる」と、成果へのつながりやすさを強調する。