インディアンの限定車「FTR×RSD Super Hooligan」に見る メーカーとカスタムの世界を繋ぐ意味
ちなみに“RSD”が設立されたキッカケは当時、全米で放映されたディスカバリーチャンネルの番組である“バイカービルドオフ”に出演するためであり、相手は伝説的なビルダーであるアーレン・ネスでした。 同番組はカスタムビルダー2名が2週間の期間でバイクを製作し、ユーザーの投票で勝者を決定するという、いわば“料理の鉄人”のバイク版。2000年代前期にはかなりの人気番組でしたが、そこで惜敗したもののローランド・サンズは国内外からの評価を確固たるものにし、2010年にはRSDをPMから完全に独立。今の活躍に至っています。
各社メーカーのプロトタイプにも関与
そんな素性を持つゆえ、ローランド・サンズの生み出すカスタムマシンは、常に“走り”の性能が追求されているのですが、そうした部分が各バイクメーカーとの深い関係に繋がっているのは、まず間違いありません。
AMAの年間チャンピオンだった実績とパーツメーカーの息子として、あくまでも安全性と機能を追求する父の姿を見て育ったローランド・サンズという人物の生み出すマシンたちは、たしかに他のビルダーが製作したものと、どこか一線を画する空気感が漂います。 実際、ローランドは多くのメーカーから仕事としてカスタムビルドを依頼され、それが後に正式なプロダクツに採用されることが、しばしばあるのですが、2013年製作のBMWMotorrad“Concept90” や、このサイトのギャラリー(写真ページ)で紹介する2015年の“Concept101”はその典型。前車は2014年に発売された“RnineT”、後車は2017年の“K1600B”としてカタチを変え、リリースされるに至っています。また今回、冒頭で紹介したインディアンFTRの開発プロトタイプもローランド・サンズの手によるものです。
また2017年にモトアメリカではじまったレースである“The Mission(スポンサー企業名)Super Hooligan National Championship (MSHNC) ”もローランド・サンズの立案によるものなのですが、そのレギュレーションは空冷で排気量750cc以上の2気筒、水冷も750cc以上の2気筒となっており、アップハンドルが備えられた車両という大雑把なもの。事前承認を受ければ電気バイクも参戦可能とのことですが、これもハーレーやチョッパー、カスタムバイクにレーサーなど、あらゆるバイクをいたずらに分別しないローランド・サンズの理念を感じさせるものです。 2000年代初頭からは日本のカスタムシーンが海外から注目され、今も世界中から熱い視線が注がれているのですが、当時のアメリカのビルダーたちが一様に語っていたのが「アメリカのチョッパーは走らないゲテモノが多くなってしまったけど、日本のカスタムバイクやチョッパーは走りのことがシッカリと考えられている」という点です。 現在、ごく少数台が残っているというインディアンFTR×RSD Super Hooliganというマシンを通して「カスタム“バイク”とは、どうあるべきか?」をプロショップとユーザーが一丸となり、業界全体で再考してみるのも悪くないかもしれません。
渡辺まこと(チョッパージャーナル編集長)