知らなきゃヤバい「シェブロン法理の無効化」とは? 日本の金融機関も重大影響の中身
「インフレ目標」「政策金利」にも重大影響?
シェブロン法理否定の影響は極論すれば、米連邦準備制度理事会(FRB)のインフレ2%目標にも及ぶ。 保守派シンクタンクのアメリカン・エンタープライズ研究所のポール・クーピエック上席研究員らが指摘するように、FRBが米議会から与えられた使命は「雇用の最大化」と「物価の安定」なのだが、1913年に制定され1977年に改正された連邦準備法は、物価上昇率目標について具体的な文言を含まない。 法的観点からは、FRBが米議会の承認なしにインフレ目標を定め、恣意的な解釈で政策金利を上げ下げし、国民生活に重大な影響を及ぼしていることになる。また、そもそも2%のインフレ目標に科学的な根拠がないことは広く金融専門家の間で指摘されており、これについても、争おうと思えば理論的には可能である。裁判官が金利を決めるようになるかもしれない。 加えて、よく主張されるFRBの政策決定における独立性についても、実は連邦準備法に明確な定めがない。そのため、トランプ氏の大統領返り咲きで金融政策に介入し、「利下げしろ」とFRBに迫っても、それに対するFRB側の防御の法的根拠は薄い。シェブロン法理の否定の後であれば、なおさらである。 もちろん、現実的には裁判所が金融のプロであるFRBの専門性と独立性、金融政策決定の権限を尊重するだろう。だが、そうした当然・必然と思われる当局の権限でさえ、裁判の対象になり得ることには留意が必要だ。シェブロン法理の撤廃による金融政策や規制・監督への影響は、想像されているより大きなものになる可能性が高いからだ。
執筆:在米ジャーナリスト 岩田 太郎