知らなきゃヤバい「シェブロン法理の無効化」とは? 日本の金融機関も重大影響の中身
判決1万9000件の「根拠」になったシェブロン法理
シェブロン法理は2024年までに、1万9000件もの連邦裁判所の判例で根拠として引用されるまでになっていた。2022年1月から2024年2月までの期間に、規制当局の法解釈の合法性が争われた68件の訴訟では、47件で規制当局がシェブロン法理により勝訴している(図2)。 ところが2024年6月28日、シェブロン判決を出した当事者である連邦最高裁が、その法理自体を覆して無効にした。「政策に関する重要な問題については立法を通じて米議会が直接的に対応するよう」求めるとともに、規制当局が越権した場合には、それを抑制する責務を下級裁判所に負わせる内容だ。 これにより、政権は金融や環境、労働、テクノロジーまで幅広い政策分野において、柔軟に規制を強化することが難しくなる可能性がある。それだけでなく、これまでに制定した規則が訴訟によって覆されるケースも指摘されている。政策や規制の在り方が大きく変わる可能性があり、産業界にとっても事業環境が大幅に変化することが考えられるが、規制強化のたびに対応を迫られた企業負担が軽減される見方もある(後ほど解説します)。 無効化された背景には、民主党と共和党の勢力が拮抗したことが挙げられる。勢力拮抗により政策を決められず機能不全に陥った米議会に代わって、当時のオバマ・バイデン両政権(民主党)が施行規則を用いて、環境・金融監督・消費者保護・教育・医療などの分野で党派性の強い政策を実行した。 これに反発した共和党の意向を体した連邦最高裁の多数派判事たちが、行政の法解釈による統治の抜け穴をふさいだのが、今回のシェブロン法理の否定なのだ。
1万9000件の判決は「無効」にされるのか?
シェブロン法理を否定した判決では特に、2022年に連邦最高裁が示した「重要問題法理(major questions doctrine)」を指針として用いるよう命じている。規制当局が経済的・政治的に重大な国家的問題に対処する場合、「明確な米議会の委任」がなければならないとするものだ。 これにより、議会が法律を作り、規制当局がそれを運用、さらに法の解釈は司法が行うという、憲政上の三権分立の本来の姿が取り戻されたとも言える。 シェブロン法理を根拠に言い渡された1万9000件の判決については、自動的に無効化されるわけではない。それらの施行規則は従来通り効力を維持する。もちろん、裁判所がケースバイケースで行政の法解釈を引き続き有効と判断する可能性もある。なぜなら今回の判決は、裁判所が技術的な問題に関する連邦政府機関の専門性を尊重した上で司法判断を下すよう定めているからだ。 ただし、係争中あるいは新たに提起された訴訟では、シェブロン法理の破棄が大前提として審理が進められるため、ビジネス環境が不安定化することが予想されている。 従来の施行規則について新たな施行規則を発令した場合、「現場の実情に沿ってない」として現場側から提訴される可能性もある。リベラル派のケタンジ・ブラウン・ジャクソン判事は反対意見の中で、「シェブロン法理の否定で、連邦政府機関は訴訟の津波に直面する」との懸念も表明した。