生まれながらの起業家が「大人たちの正論」に聞く耳を持たない納得のワケ
この世には、息を吐くように事業立ち上げを連発する、生まれながらの起業家とでも呼ぶしかない人々が存在する。若くて資金も乏しいにも関わらずビジネスを成功に導く彼らは、夢を止めようとする「真っ当な大人」の意見には決して耳を貸さなかったのだという。その理由はなぜなのか?「起業家精神」の本質について、アメリカのバブソン大学で教鞭をとる山川恭弘氏が語る。※本稿は、山川恭弘『バブソン大学で教えている 世界一のアントレプレナーシップ』(講談社)の一部を抜粋・編集したものです。 【この記事の画像を見る】 ● 資金や年齢は関係ない 生まれながらの起業家 10年以上、大学で起業道を、失敗学を教えていると、本当に数多くの学生、起業家に出会います。教え子でなくても、起業家、あるいは起業家の卵に会うことは日常茶飯事です。もちろん、さまざまな人がいます。大学に入る前にすでに起業している人もいれば、在学中に起業する人、それで失敗して再チャレンジの準備をしている人。本当にカラフルです。 その中には一定数、生まれながらの起業家:Natural-Born Entrepreneurとでも呼ぶしかない人もいます。息を吐くように事業立ち上げを連発する。一見すると、何も考えていないようにも見えます。「やりたいことがある」「叶えたい夢がある」、それを実現するために、「それができそうな会社に入って、出世して、権限を得て、実現する」よりも、起業したほうが早い、いや、起業しないと実現できない。そう「感じる」から、彼らは起業します。 よく、ティーンエイジャーで起業して話題になる人がいます。その人たちの中には、一定の割合で、「周りの大人に担ぎ上げられている人」がいます。一方で、一定の割合で、生まれながらの連続起業家もいます。彼らには年齢は関係ない。自分が学生であるだとか、手元に資金がないだとか、そういうことは関係ないのです。
● 高校の施設を使って 試作品作りから起業 叶えたい夢がある。だから、一歩踏み出す。 それだけです。先日、日本でのイベントでスピーカーとして登壇した日本人の起業家がいました。まだ若い女性ですが、高校生のときに、肌が弱くて市販の化粧品が使えない妹でも使える化粧品を作りたいと、学校の施設を使って試作品を作り始めます。そこから、あっという間に起業してしまうのです。ここで、「当たり前の大人」ならどうなるでしょう。 ・市場調査をしてみよう ・競合となる大手化粧品会社の状況、同じような自然派化粧品会社の状況を調べよう ・薬機法について調べよう ・製造は工場に委託することになるから、誰かの助けを借りなければ ・販路はどうしよう、広告はどうしよう ・売れるだろうか こんな不安が当たり前に頭をよぎります。そして、もしこの女性がそのような考え方の持ち主だったら、それぞれの「専門家」の話を聞き、周囲の大人に相談し、資金集めをどうしようかと悩み、あっという間に10年が過ぎ、どこかの化粧品会社で働いている、かもしれません。 それはそれで、一つの方法です。大手化粧品会社のリソースを使って、「肌が弱い妹でも使える化粧品を作る」という選択肢も十分すぎる価値があります。 しかし、その彼女は、こともなげに、起業し、化粧品を作り、販売しています。「資金集めはどうしましたか」「薬機法にはどう対応しましたか」「製造工場などはどうやって探しましたか」、こんな質問には、実はまともな答えは返ってきません。 ● 当たり前すぎる 夢を実現する行動 「そこは、周りの人が助けてくれたんです」 と笑うのです。もしも彼女が、行動する前に、一歩踏み出す前に周囲の大人に相談していたら、「どうしたらいいですか」と聞いていたら、ほとんどの大人は止めたかもしれません。 「ちゃんとお金をためてからやったほうがいいんじゃない」 「手伝ってくれる人を集めてから」 「専門的なことを勉強してから」 「どうせ無理だから」 しかし、彼女は聞かなかった。いえ、聞かなくても、そういったことを言う大人はいたはずです。でも、意に介さなかった。なぜなら、彼女にとって、「夢を実現するため」の行動は当たり前すぎることであり、起業はその手段にすぎないからです。 何を悩むことがある?そう感じていたでしょう。 一方、踏み出して行動する彼女の周囲には、それを手伝おう、一緒に夢を叶えようとする人が集まってきます。5人の変態(編集部注/変化を常態とする人)も集まってきたはずです。それぞれの専門性をもつ同志です。事務的なことが得意な人もいたでしょうし、薬機法に詳しい人、製造業に詳しい人、資金調達に長けた人、マーケティングの専門家、多様な人がどんどん集まってきたでしょう。