【ラルフ・ローレンの別荘を訪ねて】世界的デザイナーの美意識が反映された静かな隠れ家
ラルフ・ローレンが家族と夏を過ごす、ニューヨーク州モントークのビーチハウス。世界的デザイナーが心から寛ぎ、愛するものだけで満たされたその家は、海と緑に埋もれてひっそりと佇んでいた 【写真】ラルフ・ローレン氏の別荘は寛ぎの空間
マンハッタンからロングアイランドを東へ車で数時間。大西洋に面したハンプトンズと呼ばれる地域は、西からサウサンプトン、ブリッジハンプトン、イーストハンプトン、アマガンセット、モントークの町から成り、"豊かなライフスタイル" を象徴する全米屈指の保養地として知られる。波の音と鳥の声、松林を吹き抜ける風の音、色とりどりの野生の草花が奏でる心地よいシンフォニーに身を任せられるハンプトンズは、ウィークデーをマンハッタンで忙しく過ごした富裕層やセレブたちが、優雅で気ままな週末や夏を過ごせる魅力的な息抜きの場として有名で、海辺ののどかな田園風景のあちこちに瀟洒な別荘が見られる。 ラルフ・ローレン氏の別荘は最東端のモントークにある。海からの潮風と新鮮な空気が気に入り、20代の独身時代から愛車を走らせてマンハッタンから足繁く通っていた。リッキー夫人と結婚し、子どもたちが生まれて家族が増えると、シンプルで安らぎを得られる居場所として毎年ハンプトンズに家を借りて夏を過ごすようになった。そのうちに気に入って購入したのが、今回、私たちが取材を許されたこの家だ。フランク・ロイド・ライトの弟子だった建築家のアントニン&ノエミ・レーモンド夫妻が1940年に設計した木造のビーチハウスで、母屋は大西洋が見渡せる小高いクリフの上に立つ。4 エーカーほどの敷地には、母屋を中心にゲストハウス、コテージ、ガレージを改装したスクリーニングルーム(映写室)、プール、プライベートビーチがある。そしてそれぞれは芝生の庭から連なる小道でサテライトのようにつながっている。 母屋を設計したレーモンド夫妻はライトが日本の帝国ホテルなどを設計した際にともに来日し、その後日本に数年住んでいた。そのためか彼らの設計には日本的な要素が数多く見られる。この家にも襖のような木製の引き戸など、至るところに和のテイストが感じられる。そのことについてローレン氏は、あえてオリジナルのデザインを残したと言う。 「私たちはこの家のすべての要素が大好きです。低い天井や木を使ったデザインは、海を眺める家にぴったりで居心地のよさを与えてくれます。つくり付けの部分が多く、まるで美しい船の中で暮らしているような感覚になります。この家にある一種のゆとりと静けさが好きなのです。石、木、革の自然な色調に心が安らぎます。なので、オリジナルのデザインの本質は変えたくなかったのです」 その母屋は2階建てで、玄関を入った2階に海が見渡せるテラスのあるリビングルームにダイニングルームやキッチン、階段を下りた1 階に二つのベッドルームと、TVを見たり夫婦で寛ぐシッティングルーム(sitting room)や庭につながるマッドルーム(mudroom/土間のようなスペース)がある。それぞれの室内には自然の石造りの重厚な暖炉や和のテイストが見られるが、そこにモダニズムを代表するデザイナーの家具を組み合わせて全体を調和させ、シックなインテリア空間をつくり出している。そしてどの部屋も旅の思い出の品々、家族の写真など、色も形も趣も異なる多くの小物で彩られている。しかし、そういった小物は"装飾品"ではないとローレン氏は語る。 「家は私たちが暮らすための場所であって、飾り立てる場所ではありません。私は一つのスタイルで統一するのではなく、いろいろなものを多岐にわたってミックスするのが好きなのです。好きなものには小物一つひとつにも思い出があり、それぞれが物語を語ってくれます。そうして家は住まう人が安らぐ場所になるのです」 BY TERUYO MORI