1990年代の珍技術3選
“スーパーテクノロジー”
1990年代のクルマがいまも中古車市場で人気が高いのは、まだまだ開発費がふんだんに使えた時代にあって、理想主義的なクルマづくりがされていたからだろう。 うっかり興味半分で購入すると、部品などで苦労するかもしれないけれど、いまの目から見ても、なんだかよさそう! と、思える“スーパーテクノロジー”が、この時代はさまざま生まれている。 それを“珍”と呼んでしまっていいかわからないけれど、この場合、エンジニアのこだわりが、常識を超越しているという点であえて”珍”とさせていただきます。なにはともあれ、クルマっておもしろい!と思わせるテクノロジーを搭載したモデルを紹介しよう。
(1) トヨタ「ソアラ」(3代目):アクティブコントロールサスペンション
日本メーカーとして高級パーソナルクーペの市場を初めて開拓したのが、1981年の初代トヨタ ソアラだ。専用開発されたDOHCヘッド搭載の2.8リッター直列6気筒エンジンをはじめ、4輪通気式ディスクブレーキ、電子制御ダンパーといった走りの技術にくわえ、エレクトロマルチビジョンや電動格納式ドアミラーなど、快適装備ももりだくさんだった。 1986年の2代目は電子制御エアサスペンションにはじまり、スペースビジョンメーター、進化したエレクトロマルチビジョン、リモートドアロック、12連奏CDチェンジャーなど、やはり当時のトヨタの持てる技術のデパートといったおもむき。 1991年の3代目は、それまでのスタイリングテーマから大きく離れ、よりパーソナル性が強いデザインとなった。エンジンは4.0リッターV8が用意され、スポーティなモデルも設定。足まわりも凝っていて、スカイフック理論を適用したTEMS(トヨタ電子制御サスペンションシステム)を進化させた「アクティブコントロールサスペンション」を選ぶことも出来た。 ちょっと話が専門的になりますが、当時トヨタは、「走行状態を各種センサーで感知し、油圧源(リニア圧力制御バルブ)によって、各輪の独立懸架用油圧シリンダー内の油圧と油量をアクティブに制御する」(同社による技術解説)アクティブサスペンションシステムの研究開発を続けていた。 上下・左右・前後方向の姿勢変化を少なくし、ロール量は4分の1以下に低減させ、ノーズダイブ量は2分の1以下、スクォット量は3分の1以下に低減させるのがメリットとされた。1989年に「セリカ」にまず搭載。 3代目ソアラに搭載されたのは「フルアクティブサスペンション」(上とおなじ技術解説)とされ、完全に油圧のみで車両重量を保持し、絶えずフラットな乗り心地・車両姿勢にコントロールすることが大々的に喧伝された。 この技術はトヨタが連綿と取り組んできたサスペンション技術の、ひとつの集大成だった。けれど、コスト高やメインテナンス性のむずかしさなどで、バブル経済崩壊のあとは、棚上げとなってしまった。 ソアラの4.0 GTリミテッド・アクティブコントロールサスペンション仕様車は当時745万円。「セルシオ」や「センチュリー」よりはるかに高かった。技術オタク(Tech Savvy)にとって夢のクルマであったのだ。 エンジニアのこだわりと、いくらでもお金を蕩尽できる当時の社会が生んだという意味では”珍”といえるが、のちに、「ナビ協調機能付き減衰力制御サスペンション」や「4輪アクティブハイトコントロールサスペンション」につながる根幹技術となった事実は重要だ。