人はどんな時自分語りをしたくなるのか。人生を語る読書会が幕を開ける――直木賞候補作『よむよむかたる』ロングインタビュー
――不思議要素が入っているんですか。 朝倉 入ってる。「本物のお前に目覚めよ」って主人公に呼びかける者がいるの。それがユニコーンなの。桐野夏生さんの『OUT』みたいなものを、お産婆さんでやりたいと思って生まれた作品なんですけど。……ってもう、何を言ってるか分からないでしょ?(笑) ――(笑)。どういう話なのか、もうめちゃめちゃ気になります。 朝倉 この間インフルエンザで休載しちゃったから、これから頑張らないといけないんだけれど、来年の秋には刊行したいと思っています。他には、六十代、七十代くらいの人の話も書きたいなと思っています。 ――ところで、朝倉さんは作家としてでなく、読み手として読書会に参加したいですか。 朝倉 したいです。「私の推薦するこの本」みたいなプレゼンもしたい。ビブリオバトルみたいに戦いたくはないけれど。 ――書評で書くのではなく? 朝倉 書評は物語全体に気を配って書かなきゃいけないから、とっても大変。でもプレゼンは、「このワンシーンがいい!」って強く言えば響くかもしれないじゃない? ――たとえばどんな本をプレゼンしたいですか。 朝倉 林芙美子の「小さい花」という短篇とか。小さな港町に、相撲取りみたいに大きくて、髪も短くて、男の人みたいで、お妾さんが何人もいる女の人がいるという話があるの。その人は甲斐性があって、お妾さんに料理屋をやらせていて、近所の連中もみんな「あの人はいいね」って褒めている。女性なのにお妾さんがいて、しかも商売をやらせるというのは男の真似事だから、決していいことだとは言えないけれど、そういう女性を周囲が褒めているのって、当時の女性たちが多様性を早くに受け入れていた象徴のような気がするんです。読書会があったら、「みんな読んでみれば」って発表したい。あと、山本周五郎の「薊」という、お武家の奥さんがレズビアンの話もあって、それも発表したいです。 ――もしそういう会があったら、朗読はしますか。するとしたら、朝倉さんは淡々と読むタイプなのか、感情を入れて読むタイプなのか。 朝倉 私は結構やっちゃうほうだと思う(笑)。それと、自分のリズムは伝えたい気がする。他の人に自分の本を読んでもらうと、わりと遅く感じるんです。それが駄目というわけではないですよ。どちらが正解ということではなくて、ただ、私はそう思っている、というだけです。 ――あ、私が思っているよりも朝倉さんの中では文章の流れが速いのでしょうか。どういう場面だと速くなりますか。 朝倉 『よむよむかたる』でいうと、冒頭の部分はすごく速いです。〈最初の老人は午前中にやってきた。〉から、〈「あれ? みんなは?」とあたりを見回す。〉までは、私の中ですごく速いんですよ。一息でいきたいくらい。だからあの部分は改行がないんです。 朗読する人って、読点を入れたところを正確に区切ってくださるんだけれど、それは、私としては目で読む時に読みやすいように入れているので、別にそこで息継ぎしなくてもいいんです。といっても自分の感覚を押し付けるのは嫌なので、朗読する人にはその人なりの表現でやっていただきたいですね。むしろ作家が朗読すると、聞き手のことを考えないから、すごく聞きづらい、自分勝手な感じになると思う。 ――でも聴いてみたいです。朝倉さんが全篇朗読したものを、Audibleとかで出してくれたらいいのに。 朝倉 わあ、大変だ(笑)。 撮影:佐藤亘 朝倉かすみ(あさくら・かすみ) 1960年北海道小樽市生まれ。2003年「コマドリさんのこと」で第37回北海道新聞文学賞を、04年「肝、焼ける」で第72回小説現代新人賞を受賞し作家デビュー。09年『田村はまだか』で第30回吉川英治文学新人賞を受賞。19年『平場の月』で第32回山本周五郎賞受賞。他の著書に、『ほかに誰がいる』『てらさふ』『満潮』『にぎやかな落日』など多数。24年9月に最新刊『よむよむかたる』を刊行。
瀧井 朝世/別冊文藝春秋