人はどんな時自分語りをしたくなるのか。人生を語る読書会が幕を開ける――直木賞候補作『よむよむかたる』ロングインタビュー
――小説の感想に耳を傾ける役まわりを、小説の書き手にしたのはどうしてですか。 朝倉 読書会で小説の感想を話すときに、小説そのものから離れて、個人的な思いを語り合うなんてくだらない、みたいな論調ってあるじゃないですか。でも、私はそうやって自分の思いを語り合うのもいいと思ってるんです。 あと、プロの書き手が本の感想を言う時って、ちょっと中身のあることを言わなきゃいけない感じがある。個人の思い出とは絡めづらいというか。でも、それって不自由なんじゃないかなと感じるんです。なので、そういうプロの書き手が、お年寄りたちの自由な感想を聞いたらどう感じるのかな、と考えました。 ――安田がどうなっていくかも気になりますが、他にも、読書会二十周年記念事業に向けての準備、美智留の過去に関わる謎、安田に訪れる出会いなど、さまざまな要素が盛り込まれていますね。 朝倉 ちゃんとエンタメをやろうと思ったんです(笑)。今回、私にしてはかなり多くの要素を入れたと思ってます。 ――いや本当に意外な展開も多くて面白かったです。さて、〈坂の途中で本を読む会〉のメンバーは六人。平均年齢は八十五歳、最年長は九十二歳のまちゃえさん、最年少はまちゃえさんの夫で七十八歳のシンちゃん、じつに個性豊かな面々ですが、どのように決めていったのですか。 朝倉 人数が多いと、私も読者も誰が誰だか分からなくなるので、これくらいがちょうどいいかなと。 まず、まちゃえさん夫婦と、元アナウンサーの会長は最初に決まりました。会長が元アナウンサーなら、ファンだった参加者もいるはずだとか、昔職場が同じで、男の人が女の人に片想いしているような要素もあったら楽しいかな、とか。 ――作中、彼らのことは安田がこっそりつけた渾名で表記されて分かりやすかったです。小柄で白髪をお団子にした副会長がシルバニアで、ふくよかで彫りが深い会計係の渾名がマンマ。シルバニアと蝶ネクタイは元中学教師で、元同僚同士なんですよね。 朝倉 マンマが大きな人だからシルバニアは小さくてかわいい感じにして、などと考えていました。どの人も、なるべく若い頃から現在に至るまでが断絶していない、若い頃のことも自然と思い浮かべられるような感じの人たちにしたかったんですね。