職場の「不正」見て見ぬふりはなぜ起きるのか 私的なものを経費申請、文具の持ち帰りなども
企業活動における汚職や横領、窃盗などで告発されるケースは少なくありません。一方、職場の文房具を持って帰る、私的なものを経費で落とす、といったレベルの不正が、職場で日常的に起きていることもあります。 なぜ職場での不正行為はなくならないのでしょうか。アメリカの心理学者キャサリン・A・サンダーソンさんの著書『悪事の心理学』から一部を抜粋、再編集し、その背景や理由について触れてみます。 【写真で見る】みんなが不正を見逃したばかりに起きたアメリカの大事件とは? ■あなたは上司と対決できるか?
アメリカで職業会計士を対象にした研究によると会計士の60%が職場で不正行為(備品の窃盗、経費報告書の誤分類、収支の操作など)を目撃した経験があり、そのうちの半数の人は報告しないことを選んだそうです。 このような行為を見過ごした一般的な理由は「報告するほど重大なことではなかった」「証拠が不十分だった」「他の誰かが報告すると思った」などでした。 しかし、黙認した最も一般的な理由は「職を失うこと」あるいは「不愉快な職場環境を経験することへの懸念」からでした。
残念ながら、この報復への恐れは決して見当違いではありません。性差別的、人種差別的、あるいはその他の攻撃的な発言をする指導的立場にある人物に、立ち向かう勇気のある人はほとんどいません。 悪事が後を絶たないのは、ほとんどの人が異議を唱えて犠牲を払わされることを恐れているからです。つまり、報復を恐れるあまり、もっとひどい行動に直面した場合でも声をあげないため、この沈黙のサイクルが幾度となく繰り返されるのです。
報復を受ける可能性が低い場合でも、人は、時として個人的な動機から悪事を見過ごすことがあります。 企業の不正行為では、他者の非倫理的行動を無視することで、その人は直接的な利益が得られる場合があります。 カート・アイヒェンワルドが著書『愚か者たちの陰謀(Conspiracy of fools : A true story)(未邦訳)』で明らかにしたように、エネルギー会社エンロン(訳注:巨額不正会計事件を起こして2001年に破綻)の経営者、弁護士、顧問などを含む多くのリーダーたちは、同社が高株価を維持するために何十億ドルもの負債を隠していたことに気づいていたにもかかわらず、その問題を明らかにしようとはしませんでした。