「ここまで明かすのか」正直すぎるシャンプー/家業を継いで気づいた、ダサい町工場を背負った父の信念 ~木村石鹸工業 後編
大阪で創業100年を迎える石鹸・洗剤メーカーの木村石鹸工業株式会社。4代目社長の木村祥一郎氏は、IT企業取締役から、家業の昔ながらの町工場へ飛び込み、社員意識とビジネスモデルの変革を成し遂げた。「正直さ」が売りの自社ブランドを大ヒットさせていく中で、町工場を背負ってきた父親のすごみが見えてきたという。変革の道のりと現在の父親への思いを、木村社長に聞いた。 【動画】なぜ事業承継が大切なのか専門家に聞いた。
◆「正直すぎる姿勢」が消費者の心を揺さぶった
――看板商品である『12/JU-NI』のほか、ハウス&ボディケアシリーズ『SOMALI(ソマリ)』など、自社ブランドの拡充に努められています。幅広い展開を見せていますが、もっとも大切にされている軸は何ですか? 「正直さ」「誠実なもの作り」ですね。生協さんなど採用基準が厳しいところと長く取引してきたこともあり、そのDNAが非常に根付いています。 マーケティング主導で売れ筋をリサーチすることも大切ですが、それで商品の性能が犠牲になっては意味がない。 『12/JU-NI』はそのスタンスがうまく噛み合いました。 シャンプーのように競争が激しい領域では、マーケティングを重要視するのが定石です。 どういった訴求軸を作るかが先にあり、処方はそれに従って決める。 ところが『12/JU-NI(ジューニ)』は開発者の多胡が理想を追求して作ったもので、何も語れるポイントがない。じゃあどうすれば良さを伝えられるか、と考えていきました。
◆理想を求めて作ったプロセスに価値
――他のメーカーとはプロセスが真逆なわけですね。 それもあって、売れると思っていなかったんです。 最初は名前も違いまして、多胡が作ったシャンプーなので「TGシャンプー」。 薬務登録もその名前で済ませていて、市販はせずに紹介制で売ろうと準備していたんです。 ところが一緒にやっていたクリエイターさんが「TGシャンプーじゃもったいないよ。めちゃくちゃいい商品なのに、これだと良さが全然伝わらない」と言ってくれて。 でもキャッチ―な訴求軸が何もない、売り方が難しいんだと話をしたら「そこがいいんじゃないか」と。 「多胡という一人の開発者が理想を求めて作ったとストレートに伝えた方が、木村石鹸の正直さと合う」と提案してくれたんです。 半信半疑ながら名前を『12/JU-NI(ジューニ)』に変えて、いきなり市販はできないのでクラウドファンディングを始めたんですね。 少しでも話題になればいいなと思いまして。それが蓋を開けてみたら、目標額30万円のところ、達成率1600%を超えて500万円以上が集まった。