「本当に奇跡が起きるとは…」 奇跡のフェス「バーニングマン」で災害級の豪雨(後編) 砂漠で身動き取れず でも脱出できたのは「与え合い」のおかげ
だが、天気次第ということもあり、バスに関する情報は錯綜している。当分出ないという話もあれば、日曜日の朝一番で出せそうだという人もいる。ここまで来て言うのもなんだが、そうそう何日も会社を休むわけにもいかない。 ▽バスでの脱出を決意 天気予報によると、日曜日の午後からまた雨が降り出す可能性があるという。まとまった雨がまた降れば、あと何日足止めされるか分かったものではない。土曜の晩は仲間のキャンピングカーで仮眠を取り、どのくらい現実的なのか分からないが、朝一番のバスが出るという可能性に賭け、午前6時頃、夜明け前のキャンプを出た。 地面は前日よりだいぶ乾いている場所はあるものの、交差点など、往来の多いところはまだ、くるぶしまで沈み込む泥沼のままだった。バス停までの道すがら、脱出を試みて動けなくなっている車を何台も見た。そのうちの1台から助けを求められ、車を後ろから押した。車はなんとかぬかるみを脱出。運転手に道中の無事を祈ってバス停へと先を急いだ。
20キロ超の荷物を担いで歩くこと約30分、ようやくバス停に着いた。だが、そこには運転手のいないバスの中で疲れ切った表情の乗客がいるだけで、バスが動き出す気配は全くない。どうしたものかと思案していると、そばにいた青年が「バスの担当者たちの会議を盗み聞きしてきたけど、今日動かす気は全くなさそうだぜ」と教えてくれた。 万事休す。いったい、あと何日ここにいることになるのか。そう思った時、なんと先ほど助けた車が走ってくるのが見えた。 ▽かくなる上は 「リノ(最寄りの都市)まで乗せてくれませんか?」 運転している男性にすがる気持ちで聞くと、「もちろん」と明るい返事。彼の名前はジョセフ・スティッツさん(32)。アーティストで、妻子をカリフォルニアに残してたまたま1人で来ていた。 彼の運転する20年以上落ちのトヨタ・プリウスに同乗させてもらったのはいいが、舗装道路に続く道は引き続きところどころぬかるんでおり、何台もの車が進退窮まっていた。だが、スティッツさんはコースを変え、道のない砂漠の中、比較的乾いている場所を選んで巧みに通り抜ける。途中には小川が2本流れており、スピードを上げて飛び越える時には生きた心地がしなかったが、老プリウスはなんとか私たちを舗装道路まで運んでくれた。