未婚、死別、離婚…おひとり様の女性3人が将来を語り合う「健康・お金・孤独が不安。自分の老いへのリアルな備えを」稲垣えみ子×吉永みち子×小谷みどり
おひとり様として迎える将来、多くの人が不安に感じているのは、健康、お金、孤独と言われています。ひとり暮らし真っただなかの《達人》たちは、どのような備えをしているのでしょう(構成:山田真理 撮影:木村直軌) 【写真】稲垣さん「ひとりでも家族といても、人が生きていくうえでの不安って変わらないのでは」 * * * * * * * ◆それぞれのおひとり様風景 小谷 今日は皆さん、はじめましてですね。それぞれの「おひとり様歴」はどれくらいですか。 吉永 私は完璧な「おひとり様」になってから、22年になります。結婚して夫とその連れ子3人、母と息子の7人家族というのを20年ほど続けていたのだけれど、母が亡くなり、いろいろあって私が家を出たのが40代後半。 一緒に暮らしていた末の息子が成人して家を出て以来、ひとり暮らしです。コロナ前に愛犬も死んでしまい……。いま74歳で、ひとりの自由を満喫しつつ、その限界も見据えながら暮らしています。 稲垣 私は大学卒業と同時に実家を出て以来、59歳の現在まで夫なし子なしの生活ですから、おひとり様歴はこのなかでいちばん長いですね。会社員時代はいわゆる独身貴族で、転勤が多く、2~3年に一度は引っ越しをしていたんです。当時は給料も年々上がったので、独身のくせにファミリータイプの物件を借りたり。 だから50歳で退社を決めたとき、当然家賃が払えなくなり、否応なく環境激変。いま暮らしている小さなワンルームマンションに、持ち物の9割を捨てて引っ越しました。 吉永 ある種の覚悟をもって始めた、第二のおひとり様人生ね。
小谷 私の場合は13年前、ある日突然、おひとり様になりました。シンガポールへ出張するはずだった夫が、朝ベッドの上で亡くなっていたんです。 吉永 まだお若かったでしょう。 小谷 42歳でした。私は死生学が専門で、「元気なうちに希望する治療や弔い方を家族と話し合っておきましょう」と講演会でお話ししていましたが、まさか夫を突然死で失うとは……。 吉永 私も9歳のとき父親が突然死したからわかるのだけど、昨日まで普通に話していた人が突然亡くなるのは、日常がひっくり返るくらいショックなものです。病気で徐々に弱っていくのを看取るのも、また違った感覚なのだろうけど。 小谷 夫は海外出張が多く、結婚生活の半分は離れて暮らしていたので、いまも遠くの国で生きているように感じています。だから人がイメージするほど悲嘆に暮れることはなく、「かわいそうに」と慰められても、「かわいそうなのは死んだ夫で、私じゃない」と内心思っていました。 稲垣 確かに、ひとりはかわいそう、では全然ないですよね。私も「電気がついていない家にひとりで帰るのは、寂しくないですか」などと聞かれることがありますが、じつは真っ暗な家に帰るのが大好きで、答えに困る(笑)。家に帰ってまで、誰かに気を使うって、考えただけで大変だと思うんです。 吉永 私はずっと母子家庭で育って家族に憧れがあったから、ひとりになったときは寂しさに襲われて、「失敗したなぁ」なんて思いましたよ。だけど7人分の洗濯をしなくていいのは、ラクだったねえ~。 出張先でお土産を買うとき、「喜んでくれる家族はいないんだ」と思えば寂しいけど、「好きな酒のツマミが選び放題!」と思えば楽しい(笑)。そういうふうに寂しさと楽しさが、《ミルフィーユ》みたいに重なっている感じかな。