〈台風15号被害〉「人間関係だけが頼り」「お祭りの文化がセーフティネットに」 千葉・安房地域
「力を合わせてほしい」
館山市を囲むような場所に位置する南房総市。約3万8000人が住むこのまちも旅館の屋根や学校の体育館の壁が崩れるなど、強風の被害を受けた。富浦地区にある市役所本庁の駐車場には、災害廃棄物となった屋根瓦が積まれて山になっていた。 Twitterで積極的に情報発信を行っている南房総市の嶋田守副市長は、「情報が入らないのはもちろんのこと、こちらの情報を発信することが困難だったことが大きい。助けを求める術がなかった」と振り返った。 発災から10日以上が経過し、かなりインフラは整ってきているとはいえ、一方で「悪徳業者や詐欺なども出始めている。まだ安易によかったね、などといえる状況ではない」と語った。 市は、エリアごとを絨毯爆撃するような形で、保健師などを巡回させてはいるが、被災者が日中、家にいないことも多く、思うように被災者の状況を把握できないケースも少なくなかったという。 こうした中、嶋田副市長は「『ヘルプ』という情報を伝えてほしい」と語った。「どうしても目が届かないところがでてくることは避けられない。市職員も疲弊していて、倒れそうな状態だ」「こういうことで困っているんだ、という情報をもらうことができれば、効率的な支援ができる」といった。 とはいえ、マンパワーは限られていて、公の支援が完全には行き渡らない状況だ。だからこそ「みんな力を合わせてほしい」と話していた。
初動の遅れ、地域の力
「わずかな時間」「限られた人に」ではあったが、話を聞いているなかで、やはり初動の遅れの影響を感じた。 千葉県では台風の風や雨による直接の死者は出なかったものの、被害の詳細どころか、大まかな被害の把握も思うように進んでいなかった。 被災地の人からは「いろいろなインフラがある中でも、電気があるかないかは一番大きいと感じた」という声も聞いた。そのことが、南房総市の嶋田副市長が話したように、被災の状況を現地から発信できないことにもつながった。 しかし、規模の大きな災害が発生した時、被害がひどければひどいほど、被災した地域から被害の情報は入りづらくなるというのは、過去の地震災害などで得た教訓の一つだ。近年、国からの食料のプッシュ型支援は一般化したが、被害状況を把握するための人を含めた「プッシュ型の人的支援」を積極的に行う必要があるように感じた。 また、現地で話を聞いている中で、他にも気にかかった点があった。 それは、館山市のある職員が話していた「今回の台風はよく来る台風と同じと思っていた。よっぽど備えなければいけないという意識があったか、というとそこまでの感覚ではなかった」という声だ。 気象庁は台風上陸の前日の9月8日、記者会見を開き、「関東を直撃する台風としてはこれまでで最強クラス」「接近とともに世界が変わる」などと警戒を呼び掛けた。台風襲来後の9月18日、気象庁の関田康雄長官は会見で、「政府の内部でどのような危機感を共有していたか」との質問に対し、「関係機関にも台風上陸前から伝えることは伝えている。関係機関に危機感が伝わっていなければ反省だが、そこはそうだったのかどうか。今後の検証で明らかになるかもしれない。少なくとも、我々が持っている情報については伝えたと思っている」と答えた。 しかし、情報は伝えていたが、気象庁が持っている危機感が外部にしっかりと伝わっていたとはいえない事態があちらこちらで生じていることは重く受け止めるべきだ。気象庁は今年度から、地域専任チーム「あなたの町の予報官」を順次配置し、自治体などへのきめ細かい気象解説を推進するとしていたが、こうした取り組みの実効性についても検証する必要性を感じた。 また、応急対応のフェーズが過ぎた後に、生じそうな問題として気になる点もいくつかある。まずは、何をおいても、館山市議会の石井議長や森議員が話していたように、住宅や生業の再建をいかにスピード感をもってやることができるかどうか、という点だ。 被災者にとっては、先行きの見通しが立たない状況が長引けば長引くほど、生活再建の道のりが困難になるのは、近年の大災害が証明している。今回は特例的に、国が住宅被害の支援対象を拡大する策を決めたという。しかし、仮に金銭的な負担を軽減するしくみをつくったとしても、工事を行う業者がいなければ、いつまでたっても傷は傷として残ったままになる。2018年に地震と台風に見舞われた大阪では、今年になってもブルーシートに覆われた家が残っていたことを忘れてはいけないだろう。 また、今回、現地を訪れて話を聞く中で、地域の力の低下のようなものも影響しているように感じた。「町の大工さんなんかは高齢化で廃業したところも結構多く、どんどん減ってきている。昔だったら、近くの家は、近くの大工さんが直して、というようなことが成り立っていたかもしれないけれども、今は、いろんなものが大きなところに集約されてしまった。こういうことも、復旧が遅れる要因になるのかもしれない」というような話を聞いたためだ。 少子高齢化、地方の過疎化、都市の過密化…。災害によって表面化する問題の多くは、災害が起こる前からの問題である、ということを改めて感じさせられた。 飯田和樹・ライター/ジャーナリスト(自然災害・防災)