〈台風15号被害〉「人間関係だけが頼り」「お祭りの文化がセーフティネットに」 千葉・安房地域
求められる国などの早期の決断と対応
今回の台風15号で大きな被害を受けている自治体の一つともいえる館山市だが、館山市議会の石井信重議長と森正一議員にも話を聞くことができた。 館山市議会は9月議会の各委員会を中止し、議会内に対策会議を設置。毎日のように、各議員が地元の情報を持ち寄り、災害対策本部に伝え、執行部の対応に生かしているという。 石井議長は「東京電力のせいにするわけではないが」と前置きしながら、「停電の中、あと2日我慢すれば大丈夫、などと思っていたのが、だんだんのびていって、精神的に疲弊した部分もある。少なくとも、各自治体の初動体制には影響していると思う。最初からまったく見込みが立ちません、ということであれば、各自治体は長期的視野に立って対応を考えることができた部分があるのではないか。しかし、復旧見通しが変わっていったことが、いろいろな面で悪循環を引き起こした面はある」と話す。 当然、こうした中、市の被害把握は遅れることになった。県から、被害件数の報告を、と催促もあったようだが、「安否確認やブルーシートの手配など、応急対策で手いっぱい。人手が足りない中で、そんなことをやっていられる場合ではなかった」(館山市職員)というのが現状だったようだ。 県や国の対応について、石井議長は「情報がなければ、行政は動けないという部分はあるのかもしれない。しかし、本来、これだけの災害であれば、自ら情報を取りに行って、という動きが欲しかった。『情報が来るまで待って、情報が来なければ何にもやらないよ、というのでは違うのではないか』という話はいろいろなところから聞いている」という。 ブルーシートの手配など応急対応が完全に終わったわけではない。直接的な人的被害はなかったが、関連死などを出さないためにも、これから復旧、復興という次のステップでは、市民生活を早期に取り戻すことが重要になる。ただ、被災者生活再建支援法に基づく支援金支給は原則「大規模半壊」以上が要件だ。被害は広域にわたっているとはいえ、一部損壊が大半。住宅の被害によっては支援の対象外になることは、今回の災害前から大きな課題とされていた部分だ。 石井議長は語る。「国から自治体にどのような支援があるのか、ということも大切だが、本当に大事なのは、被災した市民個人個人に対して、どのような支援があるのか、だ。それはまだこれからになる。私たちが地域をまわる中で、市民から聞かれることもこの部分になることが予想される。こうした情報を、少しでも早く明確にしなければならない。議会としてもここがポイントになるだろう」 報道によると、政府は24日、台風15号による住宅被害を巡って、国の支援制度の対象から外れる一部損壊についても、自治体向けの支援を拡充することを決め、自治体が創設する修理費補助金の9割を国が負担するという。しかし、果たしてそれだけで十分なのかどうか。住宅は、被災者が生活を再建していくうえで柱となるものだ。住民の不安を払しょくする方針を示すだけでなく、素早く対応していくことがとにかく重要になる。 石井議長は「避難していて、家に戻れないような人もいる。仮設住宅、みなし仮設といった話も同時進行で進めていかなければならない。とにかくスピード感が大切だと思う」と語る。 そして、住宅の問題とあわせてもう一つ大きな課題になるのが産業、いわゆるなりわいの問題だ。 石井議長や森議員によると、館山市内に多い花卉(かき)農家は、ビニールハウスの倒壊などで、壊滅的な被害を受けている。森議員は「花の苗をちょうど作っているところで、苗が全滅に近い方もいるようだ。一年間、収入がない状況が続く農家の方も出てくるのではないだろうか。高齢の方も多いので、中には再建という選択肢を選ばす、これで廃業だという人もいるだろう。当然だ。農家の方の中には、自分の家もやられていて、さらに仕事場である農場もやられている方たちも多い。立ち直るすべがない。漁業者においても、同じような状況が懸念されるだろう」と語る。 東日本大震災の被災地では、産業の復興が大きな問題になった。後に支援策ができても、その支援策ができるまでに時間がかかったため、再建できなかったケースも少なくない。「遅ければ遅いほどあきらめてしまう人が出る。産業の支援策についても、速やかに提示する必要がある」 農漁業者だけでなく、旅館・民宿などの被害も深刻なようだ。石井議長は「私の近くでも、建物に大打撃を受けたため、これをもう一度立て直すというのは無理だから、廃業することを決めた、と話している仲間がいる」という。「民宿なんかだと、家族経営が多いが、これがある程度の大きさになると、雇っている従業員が失業するといった負のスパイラルが起きることも考えられる」と危惧する。 こちらも、とにかく国、県などの早い決断と対応が求められるだろう。 ただ、こうしたさまざまな問題が山積する一方で、今回の台風によって、二人は館山の人々の強さも感じたという。 「館山や南房総といった地区は、お祭りという文化がすごく根強い地域。お祭りのための組織、青年団なんかが、自分の地域を助けて回っている例もあった」。祭りという地域の文化が、実は緊急時に人々を支えるセーフティネットになっていた、ともいえそうだ。