〈台風15号被害〉「人間関係だけが頼り」「お祭りの文化がセーフティネットに」 千葉・安房地域
9月9日に上陸し、千葉市で観測史上1位の記録を更新する最大瞬間風速57.5メートルの強風を観測するなど、関東地方各地に大きな被害をもたらした台風15号。そのなかでも、台風の中心より東側にあたった千葉県の各地では、強風による家屋の被害に加えて、長期間にわたる停電が人々を苦しめた。 いたるところの屋根に設置されたブルーシート。吹き飛ばされて屋根がなくなっている事業所。「瓦落下注意」と書いた紙を置いた道路脇の家。そして、市役所脇に集められた大量の屋根瓦…。10月になったが、いまなお、台風の爪痕は生々しく残っているようだ。 台風上陸から10日余りが過ぎた9月中旬に、被害の大きかった千葉県安房(あわ)地域の館山市や南房総市を訪れ、まちの人々に話を聞いた。少し、時間は経ってしまったが、その声を紹介したい。
悲惨な情報不足
「大小を問わなければ、この地域の8~9割の家は何らかの被害を受けているのではないだろうか」 そう語るのは、千葉県館山市八幡に住む60代の男性、木曽義和さんだ。JR内房線の館山駅から北に約1キロ、千葉県指定無形民俗文化財でもある例大祭「安房国司祭やわたんまち」で知られる鶴谷八幡宮にほど近い木曽さんの自宅。その屋根は瓦ではなく銅屋根だったが、強風によって、北にある2軒の家を飛び越え、50メートルほど先の家に直撃していたという。 当然のように家の中は、強風と共にやってきた雨によって水浸しとなった。自宅を建ててくれた地元の工務店がいち早く屋根の補修をしてくれたため、現時点で雨はしのげている。が、今でも後片付けに追われる日々が続く。 「工務店の社長は自らの家が被害を受けているにもかかわらず、自分の家は後回しで、お客さんの家を優先してまわってくれている。本当に頭が下がる思い。ただ、『住宅メーカーが建てた家からも、何とかして、という声はあるが、自らの客だけで手いっぱいでとても手が回らないのが現状だ』と話していた」 そして、そんな木曽さんが今回の台風を振り返ってつらかったのは、やはり情報不足だった。 「どのような被害状況なのか? どのような支援を受けることができるのか? ほんのちょっとの情報すら手に入らない。悲惨だった。知り合いに会い、『どうなっている?』と聞きまわることで、なんとか情報を得ていた。私たちは、こうした口コミの情報をFacebookなどで交換し合うことができていたのでまだ良かった。しかし、そのような手段を持たないお年寄りたちは、相当につらい思いをしていたと思う。『ホームページを見てください』では情報は届かない」 情報が入らないことで、いろいろな噂話も流れた。その中には少なからずデマもあったという。木曽さんの知人で、近くに住む松井啓悟さんは「『断水の原因は、水源が汚染されたから』。そんな話が入ってきて、あやうく拡散しそうになった」と振り返る。実際は停電でポンプが作動しなかったことが原因だったようだ。 そして、仲間同士が集まると、行政の対応の遅さも話題になった。「停電で信号が消えていても、しばらくは警察官の姿を見ることもなかった。そんな中、『ニュースは組閣のことばかりみたいだ』という話が流れてきた。『政府はきちんと対処したと言っているようだ』という話も聞こえてきた。この地域は、人口が少ないから、忘れられているのではないか。そんな気持ちにもなった」。木曽さんや松井さんは話す。 木曽さんの自宅前で話を聞いていると、隣の家に住む高齢の男性が、片づけ作業をしているのが目に入る。「捨てるのがあれば持っていくよ。ここに置いてくれたらいいから」と木曽さんが声をかける。 「結局、人間関係だけが頼りなんだよ」。発災直後からの大変な状況をどのように乗り越えてきたのか。ほんの一端ではあるが、それが垣間見えたような気がした。