『源氏物語』だけじゃない、時代を超えて愛される「平安文学」の魅力と影響、当時の批評から国宝の屏風、現代作品も
■ 『狭衣物語』VS『源氏物語』 文学が盛り上がるとともに、批評本も登場した。展覧会には『無名草子』が出展されており、内容の一部を現代語で紹介している。鎌倉時代初期に成立した史上最古の批評文学で、若くして皇嘉門院の母・北政所(藤原宗子)に仕えた老尼と若い女房たちが、平安時代の物語について思うところを述べるというスタイル。これが、意外なほど辛辣で、おもしろい。 例えば、老尼が『狭衣物語』について批評するくだり。「『狭衣物語』は『源氏物語』に次いで素晴らしい作品だと思います。物語冒頭が「少年の春は―」ではじまるのも良く、言葉遣いはどことなく優美で、とても上品ですけど、取り立ててある場面が心に染み入るほど感動的だということもありません。また、そんな筋立てにせずともよいのに…、と思われる箇所もたくさんあります。」 持ち上げて、突き落とす。老尼の言葉がなんとも手厳しい。一方、『源氏物語』については大絶賛だ。「『源氏物語』以降に物語を書く人は、とても簡単でしょうね。『源氏物語』を頭に入れておけば、『源氏物語』よりも優れた物語を書ける人もいるかもしれません。紫式部は『うつほ物語』、『竹取物語』、『住吉物語』などの物語を見ていただけのはずなのに、あれほどまでの物語を書くことができたのは、常人の仕業とは思えません。」 『源氏物語』は書かれた当時から、「別格の扱いだったのだな」と改めて実感。この展覧会でも『源氏物語』の美術を特集した1室が設けられている。国宝 俵屋宗達『源氏物語関屋澪標図屏風』を筆頭に名品がずらりと並ぶが、今回は近年新たに発見され本展が初公開となる土佐光起『紫式部図』が目を引いた。やまと絵の名手・土佐光起が紫式部の肖像を描いた作品で、紫式部が石山寺で琵琶湖に映る月を見て、手に筆をとり『源氏物語』を書き始めたという伝承に基づいている。
■ 時代を超えて愛される平安文学 展覧会では現代の截金ガラス作家・山本茜による「源氏物語シリーズ」も特別陳列。「中学2年の時に古典の授業で『源氏物語』に出会い、“いずれのおほんときにか~”で始まる文章の美しさに夢中になった。現在は『源氏物語』54帖の各帖から得たイメージを造形化する源氏物語シリーズに取り組んでいて、これまでに22帖を制作。生きているうちに(笑)、54帖を完成させたいんです」と山本さん。 制作には透明なガラスの中に截金を封じ込める「截金ガラス」という独自の技法が用いられ、完成した作品は大英博物館に収蔵されるなど、高い評価を受けている。会場では制作の工程を撮り下ろした映像も公開。息をのんで見守りたくなるような細やかな手仕事に見入ってしまうばかり。 時代を超えて人々を夢中にする『源氏物語』、そして平安文学。NHK大河ドラマはまもなく最終回を迎えるが、その“いとをかし”な王朝美の世界はこれからも輝き続けるのだろう。 「平安文学、いとをかし―国宝「源氏物語関屋澪標図屏風」と王朝美のあゆみ」 会期:開催中~2025年1月13日(月・祝) 会場:静嘉堂@丸の内 開館時間:10:00~17:00(土曜日は~18:00、第3水曜日は~20:00) ※入場は閉館の30分前まで 休館日:月曜日(1月13日は開館)、12月28日~1月1日 お問い合わせ:050-5541-8600(ハローダイヤル)
川岸 徹