『源氏物語』だけじゃない、時代を超えて愛される「平安文学」の魅力と影響、当時の批評から国宝の屏風、現代作品も
(ライター、構成作家:川岸 徹) NHK大河ドラマ『光る君へ』の放映もあり、今年大きな注目を集めた平安時代の文芸。古写本や版本、絵画、絵巻、書跡などを通して平安文学の魅力を探る展覧会「平安文学、いとをかし―国宝「源氏物語関屋澪標図屏風」と王朝美のあゆみ」が東京・静嘉堂文庫美術館(静嘉堂@丸の内)にて開幕した。 【写真】「平安文学、いとをかしー国宝「源氏物語関屋澪標図屏風」と王朝美のあゆみ」展示風景。今回初公開となる土佐光起の《紫式部図》 ■ 今も読み継がれる名作が誕生 日本文学の黄金時代はいつか? その答えは、「平安時代」が筆頭候補だろう。905(延喜5)年に『古今和歌集』が撰集され、和歌が公的な文学として宮廷社会に浸透。和歌を美しく記すために平仮名が発展し、平安時代中期から後期にかけて仮名文学は一大カルチャーとして盛り上がりを見せた。随筆、日記文学、物語文学、歴史文学など、様々な分野で数多くの名作が誕生している。 静嘉堂文庫美術館で開幕した展覧会「平安文学、いとをかし―国宝「源氏物語関屋澪標図屏風」と王朝美のあゆみ」。平安文学の古写本や版本、さらに作品を題材にした絵画や書跡などを紹介する内容。『枕草子』『源氏物語』を筆頭におなじみの名作が次々に現れ、「平安時代は名作の宝庫だ」と改めて感じさせられる。 展覧会に登場する主な作品を成立年順に並べてみた。 ・『伊勢物語』 成立/9~10世紀。在原業平をモデルにした「昔男」の一代記。貴族の間で広く読まれた。 ・『古今和歌集』 成立/905(延喜5)年頃。醍醐天皇の勅命により編纂された日本最初の勅撰和歌集。 ・『平中物語』 成立/960~965(天徳4~康保2)年頃。貴族・平貞文と様々な女性の恋愛譚を記した歌物語。 ・『蜻蛉日記』 成立/974(天延2)年以降。藤原兼家の妻・藤原道綱母による結婚生活を中心にした回想録。 ・『うつほ物語』 成立/10世紀末期。藤原俊蔭が天人から授けられた琴とその奏法に関する日本初の長編物語。 ・『枕草子』 成立/1001(長保3)年頃。中宮・藤原定子に仕えた清少納言による日本最古の随筆。 ・『紫式部日記』 成立/1008(寛弘5)年頃 紫式部による宮仕えの回顧録。『源氏物語』に関する記述が複数。 ・『源氏物語』 成立/11世紀初頭 作者は紫式部。光源氏を主人公とする全54帖から成る物語。 ・『和漢朗詠集』 成立/1018(寛仁2)年頃。漢詩・和歌・管絃に優れた藤原公任撰集の詞華集。 ・『栄花物語』 成立/正編:1028~37(長元年間)年頃、続編:1092(寛治6)年頃。宇多天皇から堀河天皇まで約200年間の宮廷の歴史を記した日本最古の歴史物語。 ・『更級日記』 成立/1060(康平3)年頃。上総国と常陸国の国司を勤めた菅原孝標の娘による回想録。 ・『狭衣物語』 成立/11世紀後半。『源氏物語』に次ぐ秀作として広く読まれ、後世の作品に大きな影響を与えた。 ・『大鏡』 成立/11世紀後半~12世紀初頭。文徳天皇から後一条天皇までの歴史を、藤原道長の栄華を中心に記す。 ・『今昔物語集』 成立/12世紀初頭。平安時代末期に成立した日本最大の説話集。短編説話1000本以上を収録。 これらの作品はすべて現在でも入手が可能。現代語に訳され、難解な箇所もあるが、手軽に親しむことができる。約1000年にもわたって読み継がれている作品がこれほど多い平安時代は、やはり文学の黄金時代と言っていいだろう。